Party Live ::Act 36-40

第36話「過去の亡霊」

2005/5/21 男爵

アイツを見付けたのは、全くの偶然だった。

しかし何年経とうが、どんな格好をしていようが間違えるはずが無い。誰よりも憎いア イツの顔を……。

――――――約6時間前――――――

俺は仲間達と森を抜け、港町リーンブルクに到着した。各自それぞれ目的はあったのだ が、すでに昼を回っていた事や何より連日の戦闘、森歩きによる疲労の為、早くに宿を取 って休もうと言う事になった。そして宿があると思しき区画へ向かっている時、祭りのパ レードの騒ぎが聞こえてきた。俺はそのパレードの方に顔を向け、有り得ないものを目に した。それは長年捜し求め、軍の情報機関を使ってもついに見付ける事の出来なかった人 物。その人物が今目の前に居る。俺は、驚きのあまり数秒固まっていた。それから俺は、 声を掛けてきたヴァイスに「野暮用がある。」と言い残し、人ごみに埋もれかけていたア イツの背中を追いかけた。

――――――約4時間前――――――

俺は街外れの雑木林に腰を下ろしていた。

この辺りは、人通りが少なく街中で尾行を続けるには向かなかった為、すぐ横の雑木林 に身を隠したところ、アイツが建物の中に入って行ったので疲労回復を兼ねて座り込んで いる。

アイツと決着を付けるにはまだ日が高い。出来れば誰も巻き込みたくない。

とりあえず今は待つしかない、今は………。

――――正直アイツの事は、半分忘れかけていた。それだけ今の自分の状況が充実して いて、それでいて楽しかった。しかし思い出してしまった、このどうしようもない憎悪を。 全ての負の感情がアイツを対象にしているのがわかる。昔の自分に戻ってしまいそうで怖 い、大切なモノを失くしてしまいそうで恐い、人が嫌いになりそうでコワイ、アレもコレ も全てアイツが存在するが故。今となっては過去の出来事など憎むための一つの要素でし かない。憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い………。――――

――――――現在――――――

建物から出てきたアイツを追って大通りに出ていた。

途端に人が多くなり尾行はし易くなったが、日の沈みきったこの時間になっては出来れ ば人の来ない所に行って欲しかった。

一定距離を保ち、延々と後を追う。追う。追う。………。

もう何十分尾行しているかわからなくなった頃、アイツは人気の無い通りに入り、人の 気配の無い荒れた廃墟に入っていった。

罠かもしれない。だがそんな事に構ってられない。一瞬の躊躇の後俺は、アイツが待つ 廃墟に足を踏み入れた。

案の定アイツは待っていた。こちらに背を向け、広い空間にたたずんでいた。

「よう、久しぶりだな。」

俺の声が廃墟に響き渡った。

第37話「真実」

2005/05/26 トラねこ

「………」

声に反応して、ゆっくりと振り返る…。その顔立ちは紛れも無く、長年捜し求めた相手 だった。

「…なんだ、尾行されていると思ったら…。ザックじゃないか…」

「あの襲撃の中、よく生きててくれた…」

淀みのない声。だが、それは本心から出た言葉なのだろうか?

「…俺も、アンタが生きている事に驚いたよ。…正直、半信半疑だった」

「アンタとは何だ。…仮にも兄弟子に向かって」

そう、親父の一番弟子…亡き故郷で苦楽を共にした仲だった。捕虜として村から出て行 く所を見た。助ける事も出来ず、ただ生きていて欲しいと願った。だからこそ違っていて 欲しい。…この憎悪を否定して欲しい。

「どうやって、助かったんだ?」

これだけが知りたい真実だった。全てはこの一言に集約されている。

「…情けない事に、命乞いさ…軍隊を前に剣で立ち向かう事さえ出来なかった…」

返ってきた答え。しかし、考えが正しければそれだけではない筈だ…。息を吸う、そし て吐く…。

「…俺の親父は強かった…」

「…ああ」

そう、強かった筈なのに腑に落ちない点がある。

「……あの日、親父達が軍隊の進入を防ぎ、戦った…」

「にも関わらず…だ。非難途中、みんなが騎馬兵に襲われた」

廃墟に自分の声だけが木霊する。低く、しかし、はっきりと…。

「…結果、敵が国を制圧し、廃墟となった村に戻ったのは俺一人」

「でも、何度も忍び込んだ事はあったんだ…」

食料を盗むため、生き延びるためよりも親の生死が知りたかった。

「…親父の死体も見つかった」

「背面に袈裟斬りの跡…弓を手に持ったまま、村の方向倒れてた。そして――」

「首がなかった」

そう、それを意味する事。それは――

「………」

「…お前の父親は、元将軍だったんだろ?首を取られてもおかしくはないじゃないか」

本当に将軍だったのかもしれない。その可能性もある。しかし――

「…では何故、親父は剣を抜く前に死んだんだ?」

「弓術よりも剣術に優れた父が、何故近づく敵に反応せず剣を握らなかったのか」

そして、父が本当に優れた武将なら非難する時間ぐらい容易に稼げた筈なのだ。

「もう一度聞く…。どうやって助かった…」

「命乞いだけで、助かるのか?村人は皆殺しにされたのに…」

「答えろっ!ゼフォル!!」

荒げた声が木霊する…。この推測を否定するには、あまりにも状況が揃い過ぎていた。 だから、憎悪だけが先走った。…それでも、否定して欲しかった。目の前の男はゆっくり と口を開く…。

「…恐らく、お前が考えている事も含めてそれが真実だ」

「何よりも自分を優先し、生き残る術を取った…それだけだ」

真実の声を聞く。

第38話「そして出会って...」

2005/4/26 无寿力

銀光がぎらぎらと東空から垂れ落ちていた。冥い真っ暗な廃れた街角に、ただ一筋の月 明かりだけが手を差し伸べていた。まるで他には何も輝くものが去くなったみたい。どう してこんなに世の中は冥いんだろう。チリチリと燃える前頭葉の疼きを抱えながら、静か に独りで記憶の闇と対峙していた。

「残念だ。残念だよゼフォル。せめて君の口からは違うと言って貰いたかった。」

大仰に天を仰いだ両腕は地を掴み、悔しげに何度も土くれを毟り取った。めらめらと舐 る紅色の感情が、胸の感情を満たしていた。俺を流れる血はこんなに高鳴っているという のに、感情はぽっかりと穴を開けたまま。何も無い。まるで心をどこかに忘れてきてしま ったみたい。

「なあ。俺はどうすればいい?ゼフォル。」

憎しみなどではない。むしろ再会の喜びで思いは溢れているというのに。何故か想いは 怒りに満たされていた。ちぎれるような痛み。

許せない。ああおれはこいつを許すことができないんだ。初めて理解した自分の感情の 在り処に、少しずつ精神を飲み下し、収束させていく。それは純粋な闘志だった。

「かまやしないさ。どうせこっちは既に“死んだはず”の存在だ。お前の好きにするが

良い。なあ、......親友。」

月光の影に囁いた心地良い鋼の摩擦と、静寂か過ぎる廃墟の風景がひどく重なって、ゼ フォルはまるで風が吹き抜けるように一瞬に剣を抜ききっていた。

親友。そうだ俺達は親友だった。ときに少年の友情は実兄弟に勝ることがある。自ずか らは理解していなくても、友というのはそういうものだ。ましてや煮炊きを共にした兄弟 弟子。その絆は今なお消えることが無い。

「不思議だよ。なんだかこれは夢のようだ。」

ここまで感情に揺り動かされたことがかつてあっただろうか。冷えた自分が離れたとこ ろから自らの思いの乱れを傍観していた。ぐらぐらと震える重くて深い思考回路は、壁一 面に紅いペンキを塗ったくったさまによく似ていると思った。

「俺は君を温かく迎えてやれるほど器が大きくなかったらしい。」

すらりと伸びる鞘の入り口を、きんと剣先が弾いて閃いた。父の剣。父に渡された剣。 父の形見。父の思い出。父の勲功。そして目の前は父の仇。

「好きにするがいいさ。ただ、好き放題させてやるほどこちらも安くはないがな。」

視界は酩酊したかのように振幅しているのに、剣先だけは真っ直ぐ目の前の友を捕らえ ていた。ぎらぎらと燃え立つ闘志は、霧散から次第に萃まりを見せていく。色あせた柄の 真中をぎゅっと握り締める。汗ばんだ掌中には決して離すまいとしがみ付く剣の応えが心 地良い。

差し込んだ月明かりが急に陰りを見せ、あたりは一瞬闇に包まれた。南天には両手一杯 の星空が。そして東空は徐々に暗雲に覆われていく。

澄んだ風は心すらも押し流すというが、今宵の風はまるで全身を突き刺すようだな。震 える指に言い聞かせながら、ゆっくりとそれに近づいていった。

「出来れば早く済ませて貰うと助かるな。こちとら暇な身じゃないんだ。」

にやりと笑う笑顔の端に、童夢の記憶が甦る。同時に、左足が僅かにステップを踏んだ もの俺は見逃さなかった。あの“かたち”は親父の剣術の基本動作。何年も前に分かたれ たとは言え、同じ流れを脈々と受け継いでいるのは明らかだ。

こちらも左足を僅かにずらす。全く同じ動き。ここまでは同じはずだ。これは何十回も 何百回も繰り返してきた基本的な作法。しかしこの先が違っているのだ。

「私怨で戦うほど俺は軽薄な人間ではない。だがこの剣、師に背いた背信者に対する排 斥の剣とさせて頂く。」

「ほう。さすがあの父あっての息子だな。素直に仇と言えば良いものを。」

くつくつと嗤うあいつの影は、ただ星明りだけが豊かに注ぐだけで、まるで闇と同化し てしまったのではないかと思わせる風貌だった。

第39話「幕間2〜ザックと『長槍』〜」

by 古津

ラングライス軍が侵攻してきている逆の村門の前にはすでに長老と村の女性、子供そして 兵役に行っていない男達が集まっていた。

「ザック!」

「ゼフェル!」

その中には当然、兄弟子に当たるゼフェルがいた。

「その剣は?」

「親父がこれで自分と皆を守れって…」

「そうか…」

ゼフェルが黙り込む。

二人が話している間にも続々と村人が集まってくる。

そして、村の兵役経験のある男以外の全員が集まった頃、長老が話し始めた。

「ここは男衆が食い止める。皆の衆は急いで逃げるんじゃ。ザック、ゼフェルを中心に男 達は皆を守りながら逃げるのじゃ」

男達に御座なりだが適当な剣や槍などの武器が渡され、門が開かれた。

「ザック、行くぞ!」

ゼフェルが真っ先に飛び出し、その後に続いて村の皆が門を抜けていった。

交戦の意思は見えても意志を確かめていない私は軍を進め、自身前に出た。

そして、最前列に出た時、ビュウッと風を切る音がしたと同時に矢が私の顔の横を通り過 ぎた。

「…全軍、戦の準備だ…」

私は鷹揚なくいい、伝令兵がそれを全兵に伝えていく。

そして私は傷跡から流れる血を拭い、後ろに下がった。

「…いい腕だな」

「はっ?」

隣にいた下士官が私の言った言葉を聞き取れなかったのか怪訝な顔をする。

「気にするな。今日中に落とすのは難しいかもしれんが…」

一度言葉を止め、再び思い直す。

「…騎兵を1部隊、まとめておけ」

「はっ!」

下士官が騎兵を集める為にそばを離れる。

兵達はすでに野営地の設営を始めていた。

一刻程経ち、野営地の設営が終わった頃、下士官が戻ってきた。

「将軍、騎兵50騎を表に用意致しました!」

「…ご苦労」

下士官の報告を聞き、私は立ち上がりテントを出た。

そこには50騎の騎兵が整列していた。

自身の馬を持ってこさせるとそれに乗り、説明を始めた。

「皆の者、ご苦労。この村の守りでは3日と持たずに落ちるであろう。…が、この程度の 村にそんなに時間をかける訳にはいかん。間違いなく守っているのは多くの村人が逃げる為 の時間稼ぎだ。よって、我々はその村人を押さえ、それを使ってあの村を落とす」

そして、下士官が自身、馬に乗ってやってきた。

「将軍、準備は万端です」

「…お前にはここで我々が動いたのを気が付かれないようにあの連中を釘付けにしておい て貰いたい」

村の方を指差し、下士官に命令する。

下士官は馬上で敬礼し、前線に向かっていった。

「…では、小競り合いが始まった後、我らは東側の森を抜けて逃げる敵を追い討つ!」

そして半刻後、前線で土煙があがり、叫び声が響き始めた。

「行くぞ!」

前線の戦いと同時に私と騎兵隊が動き始めた。

第40話「幕間3〜ザックの『撤退戦』〜」

2005/5/23 男爵

深緑の森が朱に染まり初める。

耳に聞こえてくるのは、草木を掻き分ける音、大勢の足音、そしてかすかに鋼と鋼との ぶつかる音。

それは、力を用いて奪う者と強さを用いて護る者。偏狭の小さな村で起った、しかし紛 れも無き戦争の縮図。

ザックは、村人を連れて裏門から森へ撤退を続けていた。

勝手知ったる近所の森とは言え森は森、老人や女子供に休憩無しで突っ切れとはさすが に言えない。

実際、先頭と最後尾の距離がかなり離れてきていた。

「ゼフィル。そろそろ………」

「あぁ、わかってる。」

ザックの言葉にゼフィルは簡潔に答え、少し開けた場所に入った所で足を止めた。

撤退を始めてから1時間弱、ほとんど休み無しで撤退を続けてきた。

皆の疲労の色は濃く、さらにこれから太陽はさらに傾き、森は危険な顔を表す。

護衛役のザック達にとっては、これからが本番であった。

休憩に入ってから10分を過ぎた所で、遅れ気味だった最後尾の村人が休憩場所に到着 した。

状況報告とこれからの方針のため、護衛が自然と集まってくる。

隊の護衛役はそのほとんどが同門の門下生である。従って自然と門下生の中で1,2の 実力を持つザックとゼフィルがそのリーダーとなっていた。

「なぁ、このペースじゃ女連中や子供はともかく、ジジババにはきついぜ。」

隊の最後尾に付いていたアレンが早速意見を投げてきた。

「あぁ、わかっている。わかっているが日暮れ前にこの森を抜けなければならない。

これ以上ペースを落としたら、魔物と軍隊との挟み撃ちだ。」

「だが、付いて行けなきゃ同じ事だ。」

「そう言うなら何か良い案があるんだろうな。」

「それを今から話し合おうって言ってるんだ。」

「そんな時間がどこにある?だいたい………」

「…………」

あーだ、こーだと忙しない討議の中ザックは、徐に進行方向――森の出口――に顔を向 けた。

そして沈黙……。

その行動を不審に思った1人が、たまらず声を掛けようとし、

「おい、ザッ…………」

「しっ、黙ってろ!」

ゼフィルに止められた。

場が静まり、風の音が五月蝿く感じてきた頃、ザックは口を開いた。

「マズイ。先回りされている。このままじゃ、森を出た瞬間に鉢合わせだ。」

苦々しく言うザックに、一同の不安の色はより一層濃くなった。

誰もザックの発言の確実性に疑問を持たない。

それはザックの能力への信頼の証であり、それ故に不安を覚えずに居られない。

「前門の虎後門の狼……か、参ったな。

向うにこの辺りの地形に詳しい奴が居やがる。」

そんな中、少しのほほんとした口調でゼフィルがそんな事を言った。

「ゼフィル、何か案があるのか?」

「案はある。が、あまりお勧めできないな。」

否定的な発言をしたにも関わらず、皆の期待の視線を受けゼフィルはゆっくりと言葉を 紡いだ。

「隊を2つに分けて片方を囮にする。」

意外な発言にすぐさま否定の意見が飛び交う。

「囮って誰がするんだ?こちとら素人集団だぞ?」

「第一出口塞がれてるのに囮使ってどうするんだ?」

「ETC,ETC,……」

飛び回る否定意見が、ゼフィルの口が開くのと同時に途切れる。

そして、静かな声をはっきりと響かせる。

「囮は俺がする。まぁ、何人かに手伝ってもらうがな。」

そして意見に対して一つ一つ答えて行き、最後に………

「今後の進路は、北上して渓谷を抜けろ。

時間は掛かるだろうが、まだ道は在る筈だ。」

と、完全回答を放つ。

「ビリー、道案内は任せる。

アレン、ルガー、サイモン、命を預けてもらうぞ。」

そして、任命。

今ある戦力の中で最良の人員配置…………ただ一つを除いて………。

「待て、ゼフィル。俺も行くぞ。」

「お前は、護衛だ。」

「ふざけるな!そんな死地にお前だけを行かせられるか!!」

――――バキッ――――

ゼフィルの拳がザックの顔を捕え、ザックは、尻餅をついた。

「お前は、師匠になんて言われてその剣を貰ったんだ?」

「………それは……………」

「お前に任せるんだ、きっちりと守り通せよ。」

「…………あぁ、任せろ。」

ゼフィルは口だけで微笑むと待機中の村人たちに向かい指示を飛ばす。

そして最後に……

「時間が無い、速やかに行動しろ!」

一団全体が行動を始めた後、ザックとゼフィルは向かい合って立っていた。

別れを惜しむでもなく、ただ一言だけ…………。

「死ぬなよ。」

「お前もな。」

ザックとゼフィルは拳を合せた後、それぞれの戦場に疾った。