Party Live ::Act 31-35

第31話「一戦士として」

古津

儀式を始め、魔力が辺り一帯に満ちていく。

辺りに人の気配を感じない場所で始めたはずだった。

なのに…なぜこの男がここにいるのよ!!

「はい、これは軍が預かるぜ」

ひょいっと魔方陣の中心にある球体を摘み上げる。

儀式中にその球体に触れるという事は充満した純魔力を自分に受ける事を意味するとい うのにアドナルドは無造作にそれを摘み上げた。

「ちょ、ちょっと、何するのよ!」

「これは軍の方で調べなきゃいかんのよ」

アドナルドが球体を掴んだ事で充満していた魔力が全て掻き消える。

アドナルドが「ひゅう」と口にし、球体を胸のポケットにしまいこんだ。

「リーネ、ここまでできるのに惜しいねぇ、どうだ、俺の元に…」

「何がよ!いいから返しなさいよ!」

話しの途中にリーネが口を挟む。

アドナルドが顎を掻きながら、「返せ」と騒ぐ、リーネを受け流す。

そして、リーネの頭に手を乗せ、抑えると口を開いた。

「こいつは、お前の手に余るしろもんだ。諦めな」

「嫌よ。折角のエレメントだもの。絶対諦めない」

これ以上、言っても無駄だと判断したのか、アドナルドが近くの木に腰掛ける。

リーネはその場に仁王立ちし、意地でもエレメントを諦めようとはしない。

アドナルドはため息をひとつ吐くと、独り言を喋りだすように話し始めた。

「こいつをエレメントって知ってるって事はこいつを持つ意味を知ってるんだよな?」

「当たり前じゃない。エレメントを持つ物はそのエレメントの持つ属性のどんな魔術で も完璧に扱えるんでしょ?」

リーネの答えを聞いて、さらにアドナルドが続ける。

「これの属性って何だと思う?」

アドナルドがリーネを見る。

リーネは自信満々に答える。

「金よ」

リーネの答えを聞いたアドナルドは特に反応はしなかったものの、腰を上げた。

そして、まるで教え子に接するように話し始めた。

「リーネ、お前が独学で魔術を習っているのは知ってるけどな、初歩の魔術入門の 本くらいは読んどいた方がいいな」

「どういう意味よ!」

リーネが叫ぶのと同時にアドナルドはふわりと浮き上がり、どんどん上空に浮いていく。

「これの属性はな、無なんだよ」

そう言って、森を抜け、空を飛び去ってしまった。

「え、そんな…」

アドナルドの言葉を聞いて呆然としているリーネの頭にばさっと何かが落ちてきた。

「痛っ」

何かはリーネの頭にぶつかり、地面に落ちる。

それは…アドナルド印の魔術入門だった。

「ふざけるんじゃないわよーーーーー!!」

リーネの叫びが森中に響いたのは言うまでも無い。

リーネがアドナルドによって儀式を中断された頃、ザックはリリアと一緒にいた。

「………」

「♪」

緊張で黙り込んでいるザックと生き生きとした感じで森の薬草、毒草を集めているリリ ア。

特に何の進展もないのはこのザックの性格が災いしているようだ。

「ザックちゃん、そこの薬草取ってー」

ザックのいる方にある毒消しに使うはずの薬草を指差し、もう一方の手で自分の傍にあ る毒草の葉だけをぶちぶち千切ってはアムルレスから借りた採取用の籠にぽいぽい放り込 んでいく。

ザックはカチコチな動きで指差された薬草を摘み、リリアに差し出す。

「どうぞ、リリアさん」

「あ、ありがとー」

差し出された薬草を受け取る弾みでザックの手にリリアの手が触れる。

その途端、ザックが硬直した。

薬草を渡した後のザックの手が引かないのに気が付かずにリリアは再び毒草の葉千切り に戻る。

ようやく、ザックが手を引いたのは20秒以上後のことだった。

薬草を摘みに来ているのはその二人だけではなく、負傷した仲間の傷を癒す為の薬草を 取る為、アムルレスの戦士達もちらほら見える。

そんな中の一人がリリアの方に何やら、薬草らしき異様な形をした草を持ってくる。

「リリアお姉さま、これ…どうぞ!」

大きな声と同時に異様な形の草が差し出される。

「あれ?いいの?これって…」

リリアの話を途中で遮り、草を押し付け、走り去っていった。

きょとんとするリリアにザックは声をかけようとした時、他のアムルレスの戦士がリリ アに話しかけてきた。

「あんた、随分薬草とかに詳しいんだね。どうだい?私達の仲間にならないか?」

「なっ」

それを聞いたザックが声をあげようとした所で、リリアが答えた。

「私は戦士って柄じゃないからやめときますよー」

リリアが笑いながら断るとザックの方を見たその戦士はさらに続ける。

「ははっ、そうかい。それだけが理由って訳じゃなさそうだね」

さらに、昔を思い出すような視線をして続けた。

「私も昔はあんたみたいだったんだよ」

立派な上腕二頭筋を見せ、ニッと笑う。

二人の女の笑い声が木霊する林で、男一人が取り残されていた。

他の仲間がそれぞれのやることをやっている頃、何もやる事がないヴァイスはなぜか、 エルと決闘をする羽目になっていた。

「…なぜだ?」

声に出して、問いかけてみるものの問いかけた相手はヴァイスを睨んでいるだけで答え ない。

事は寝ていたヴァイスが起き上がり、与えられた部屋から出ようとした時、偶々葬式を 終え、自分の小屋に戻ろうとしていたエルに出くわした所から始まった。

紆余曲折があり、今の状態に至っているのだが、要約すると戦闘後のひっぱたきが原因 らしい。

「だから、あの時はカッとなって悪かったって言ってるだろ」

武器こそ持ってないが視線でヴァイスを殺そうと言う意気が伝わる。

しかし、エルからは一向にかかってくる気配がない。

対峙してすでにどれだけ時間が経ったか。

ヴァイスがいい加減疲れたなーと思った時にエルの方から口を開いた。

「…確かに貴様の言った事は正しい。だが、戦士が誇りを忘れればもはや、戦士ではな い…。我らアムルレスは戦士の集団だ。恐れる事は誇りのための死ではない…。誇りを侮 辱される事だ…。いかに貴様が言う事が正しかろうと…我らの…森の民、そして女戦士と しての誇りを侮辱する者は許さん!」

言い終わると同時にエルが距離を詰める。

振り下ろされる拳を、さっと避ける…訳もなく、見事に食らう。

「ぐおっ!」

ヴァイスがのけぞる。

そこに追い撃つようにエルの二撃目がヴァイスの腹部を捉える。

「うげ…」

ヴァイスが苦しい声を漏らすと同時にエルの三撃目がヴァイスを吹き飛ばした。

吹き飛ばされたヴァイスが壁に叩きつけられ、衝突音と共に、その近くにあった置物が 崩れる音が鳴り響いた。

「はぁはぁ…」

物の崩れる音の後にヴァイスが耳にしたのはエルの乱れた呼吸だった。

殴られた腹部と顔面を撫でながら、ヴァイスが立ち上がる。

「いててててて…」

そして、エルに近づき、話し始めた。

「…気は済んだか?」

その言葉にエルが怒りをあらわにして叫ぶ。

「貴様ーーー!まだ、我らの誇りを侮辱するか!」

再び、エルの拳が振りあがる。

ヴァイスの身じろぎもしない姿勢にエルの拳がヴァイスの鼻先で止まる。

「いい加減気付け!お前の言ってることはお前達の誇りじゃない!お前が自分を守るた めに言ってるだけの詭弁だってことを!!」

ヴァイスの叫びの後、その場を支配したのは鳥の囀りと森の葉が風に揺られ、擦れる音 だけだった。

次の日…

「さてと、そろそろ行こうぜ」

静寂が支配する森にヴァイスの声が木霊する。

時間はまだ未明、ヴァイス一行は荷物をまとめ、集落の入り口らしい所に集まっていた。

「そうだな」

今日は機嫌がいいのか、声が普段より落ち着き、明るいザックの声が反応する。

まだ眠そうなリリアと寝起きで機嫌が悪いようなリーネからは何の反応も無い。

リーネの不機嫌の理由はアドナルドなのだが、そんな事、露とも思わないヴァイス達。

「んじゃ、行こうぜ」

ヴァイス達が始めの一歩を踏み出そうとしたとき、不意に声がした。

「お前達、道も分からないまま行く気か?」

木の陰からエルが現われた。

さらに木の上にもアムルレスの面々がズラリと並んでいた。

「貴様らの目的地など知らんが、一応集落の恩人だ、のたれ死にされても適わないから な」

「男共は気にしないがリリアとリーネに死なれるの悲しいしな」

「リリアお姉さまー、お元気でー」

など、木の上のアムルレス達は好き勝手に話す。

散々な言われ方にヴァイスとザックは頬を引きつらせた笑顔を向ける。

最後くらいザックも穏便に済ませようと努力しているらしい。

ザックがそんな努力をしている事など知るはずの無いエルが話しを続ける。

「森を出るところまで案内する。付いて来い」

エルが一行の先頭に立ち、歩き始めた。

呆気に取られているヴァイスとザックは足が進まない。

寝ぼけているようにしか見えないリリアと機嫌が悪く、ただ単に進めば付いていく状態 のリーネはすでにエルに付いて行っていた。

「おい、ヴァイス、置いてくぞ」

エルが振り返り言う。

その声でやっとヴァイスとザックの足は動き出した。

第32話「3点セット」

2005/3/7 無重力

「かーっ、やっと人心地ついたって感じだ。」

西の空が紅に染まる頃、ご機嫌なヴァイスは二階の窓から身を乗り出して全身に風を受 けていた。左手にはLサイズのビール。風呂上りなのか、胸元を広げてばたばたやりなが ら時折その麦水を口元に注ぎ込んだりしていた。

「鬱陶しいわね...。」

一行がリーンブルグの街に着いたのは、南天が僅かに傾く頃だった。エルの案内により あっさり森を抜けることが出来、その足でこの街へと向かったのだ。ある程度予想にはし ていたが、こちらのスペックを全く考慮に含めない非道い強行だった。

とはいえダカールを出てから五日余り。その間まともな食事にもありつけなかったし、 ましてや風呂なんて一度も入っていない。そんな当たり前を再び手に入れて、ヴァイスは ひどくご機嫌だった。

「だいたいあんたの部屋はここじゃないでしょ?さっさと出てきなさいよ。」

「あー?」

リーネは手元の雑誌に目を落としながら、顎で邪魔者を追いやった。今読んでいるのは 魔法学校生向けの漫画週刊誌。マイナーだがそれなりに面白くて、旅に出る前は毎週欠か さずに読んでいたやつだ。たまたま見かけたので衝動的に買ってしまった。アド印の魔道 書は、未だ目すら通していない。

「しょうがないだろー?アイツはまだ帰ってきてないんだから。」

一行が街に着いたとき、ザックだけは別行動を取ると言い出した。なにやら野暮用があ るらしい。そんなわけで二部屋借りたうちの片方は一人だ。どうせ今夜中には帰ってくる だろうということで、4人分でチェックインしている。

「それにしても遅いね。何やってるのかな。」

傍らのベッドで仮眠を取っていたリリアもごそごそと起き出してきた。そろそろ夜の帳 も降りてくる頃である。妙なことに巻き込まれていなければ良いが。

「まー気にするなって。あいつにはあいつの仕事があり、俺達には俺達のやるべきこと があるっ。」

それなりにアルコールが回っているらしい。いつも鬱陶しいヴァイスが3割り増しでう ざったい。

「やるべき事って何よ。」

「飯、風呂、寝る。」

本気で追い出してやろうかと思った。幸いなこと、中年おやじからもらったペンダント の調子はすこぶる好調で、今すぐにでも魔力弾でぶちのめす事が出来る。

「はいはい、わかったから出て行ってねー。」

リリアが満面の笑顔でヴァイスを見つめていた。まずい、あの目は“本気”の瞳だ。リ ーネはこの後に起きる事態をある程度予想して、ため息をついた。ただでさえ寝起きで不 機嫌なリリアだ。

最悪なことは、この状態にヴァイスが気づいていないということにある。ほろ酔い状態 の人間には、的確な状況判断ほど難しいことは無い。

「これにあと、いい女がいれば最高なんだがなー」

....一向は今日も平和だった。

第33話「追憶、そして――」

トラねこ 2005/3/10

…さまざまな帆船がここに立ち寄る港町リーンブルク。俗な連中も多いが、それ以上に 街は賑わいを見せていて、ラングランス帝国を古くから支えている良い街だ。ヴァイスに 野暮用があると伝えて、今、街外れの雑木林に腰を下ろしている。微かに聴こえるのは賑 やかなパレード、風が木の葉を撫でる音。…過去の自分と向き合っている。…偶然にも捜 し求めた人物が現れた。俺の推測を真実という色で形にしてくれる人物が…。鮮明に記憶 を辿る、答えを明るみに出すために…。鞘に収めた銀の剣を眺めている。古びたそれは誰 よりも自分を知っていた――。

――8年前、隣国との戦があった。原因は広域に広がった帝国に対する領土争い…境界 に当る寂れた村の襲撃を合図に始った。別に珍しい事ではない。当時、その様な戦は事実 、頻繁にあった。ラングランスという名の国が好戦的に戦をし、領土を広げる勢いある国 だったからだ。今は帝国の名を示すとおり、兵術に優れた大国であり、安定した国営を行 っている。

歴史的に見れば、ラングランス帝国の進撃の影にある些細な戦。しかし、自分にとって は忘れる事のない戦。何故なら自分は、侵略された寂れた村の生き残りだからだ。

襲撃が起こった当時、『長槍』の紋章を掲げる国の主力部隊は北を侵攻しており、『長 槍』が国に戻り、廃墟と化した村を取り戻すまでの期間、1年間余り…ただ生きる事に必 死だった。

――グリップに巻いてある布は所々ほつれている。グリップを布で巻いている理由は、 施されている装飾が邪魔で握りづらいから。その装飾も布から染み出た汗と血で本来の輝 きを失っていた。

剣と不釣合いな皮の鞘。豪華な装飾を施された鞘は金に換え、食い繋いだ。

刀身は刃先が欠け、負荷が目に見えた。鍛えたのは数ヶ月前だったが、我ながら無茶な 使い方をしたと思う。刀身の太さも昔と比べ、随分磨り減っている。

――森での一件…焦りや疲労があったにせよ、軽率な行動を取った…。安い挑発に乗っ て、狩人に捕まった。怒りに身を任せ、報復を望んだ。…何度、仲間を危険に晒しただろ う?もし、仲間を失ったとしたら、俺は旅に付いて行った理由を失うというのに…。

8年前のあの日から、俺は誰にも負けない強さを望んだ。自分に足りないものは奪った …。けど、今はその在り方を否定したいと思う自分がいる。心から守りたいと思う人が現 れた。…守る為の強さ、それを求めようとしているのではなかったか?

――手にある銀の剣はあの時の自分を良く知っている…。

だから手放す時は、今までの在り方を否定できた時…そう決めていた。しかし、手に持 つ限り否定など出来やしないのではないか?…この剣はあまりに自分を知り過ぎている。

しかし、今は過去の自分と決別する事など到底できそうもない。

…ヤツが建物から出てきた。

――真実を知っても恐らく何も残らない。

――だからと言って、そのままになど出来るわけがない。

―――――

「魔術の基礎…ねぇ〜」

パラパラと漫画を流し読みしながら呟く。

「ん〜?どうしたの?」

宿の机に数冊の本を積み上げ、真っ白な紙に筆を走らせながらリリアが聞いてきた。

「別に〜。なんでもない」

「…ふ〜ん」

寝起きで不機嫌だったリリアは、酔っ払いを退治して機嫌が直ったと思いきや机に向 かい執筆活動を始めた。酔っ払い事、ヴァイスは廊下で全身を痙攣させている。…通行 の邪魔だと思う。

「――で、さっきから何書いてるの?」

本を置き、リリアの方を向く。走らせていた筆を止め、リリアがこっちを向く。

「報告書〜。サンドウォームの調査内容とか〜」

「報告…って誰にさ?」

「国。戦況は街の兵士さん達が報告してるんだろうけど、サンドウォームの凶暴化の原 因、細胞組織の変化なんかは私しか調べてないし。それに、御神木の件もあるでしょ?」

「は〜、律儀ね〜」

そういえば、私も御神木について調べたんだっけ…まぁ、報告なんてする気さらさらな いけど。サンドウォームの一件と比べたら、エレメントを使ってまでの変質をさせる辺り 、手口がより確実なものになってる気がする…。

「――それに」

リリアの声にハッとする。

「それに、対処法を研究しなくちゃ。また、いつ遭遇するかもしれないしね」

はぁ、普段ぽけーとしていてもちゃんと考える事は考えてるんだなーと関心する。そし て、リリアは机に向かい最後の一筆を加える。

『対処法の調査のため、明日の夕方までに研究費をリーンブルクに届けるよう願う』

『リリア・イレイシア』

「――っと」

報告書を書き終えて、リリアは一息をつく。…たぶん、最後の一筆の内容を音読しなが ら書いていたのに気付いてない。

「……」

「じゃぁ、ちょっと行ってくるね〜」

鼻歌交じりに宿屋から出かけるリリアだった。

第34話「便利な公共機関」

2005/4/6 男爵

リリアが部屋から出ると、すぐそこで上半身裸のヴァイスがまだ痙攣していた。

「ヴァイスちゃん。何時までそうしてるの?」

リリアが危険な痙攣を繰り返しているヴァイスに軽い調子で問い掛けると、これまた軽 い調子でヴァイスは返事をした。

「ん?かわいい女の子が心配そうに声を掛けてくれるまでだな。」

「………ふぅ。……声、掛けたわよ。」

馬鹿馬鹿しいヴァイスの答えに呆れながらリリアは、ヴァイスの話にため息交じりなが ら乗る事にした。すると、今度はヴァイスの方からため息が聞こえた。この間ずっと痙攣 継続中。意外と器用なヴァイス君。

「聞いてなかったのか?俺は『かわいい』って言ったんだぞ。」

ヴァイスがそう発言した瞬間、リリアの手に一本の注射器が現れた。

「もう一本逝っとく?」

天使の様な笑顔と共に発したその台詞が、死ぬほど恐かった事は言うまでもない。

さすがにヴァイスも身の危険を感じ痙攣を止めて起き上がった。

「遠慮させていただきます。……で?何の用だ?何か用があるから声を掛けてんだろ。」

「あぁ、ちょっと出掛けるから付いてきて。」

「何故?」

「こんな時間に乙女の一人歩きは危ないでしょう。だ・か・ら……」

「安心しろ。おまえを押し倒せる男は世界に10人も居ないから。」

実際リリアの能力、狡賢さ、残酷さ等々を考慮に入れて鑑みるに、リリアを殺すならと もかく、押し倒す事が出来そうなのは、ヴァイスの知っている人の中でも2人しか思い当 たらない。その内一人は、激純情野郎『ザック』なのであるが。

「ナンパ君が寄って来るかもしれないじゃない。一々相手するのも面倒だし……ね?ヴ

ァイスちゃん。」

「…………御意。」

濁った緑色の液体の入った注射器を手で弄びながら、笑顔で問い掛けてくるリリアにヴ ァイスは、茶化す事も出来ず首を縦に振るしかなかった。

―――十数分後―――

リリアとヴァイスは、強姦者に襲われる事もナンパ野郎に声を掛けられる事も無く(酔 っ払いにひやかされたが…)無事に目的地に着いた。

『国立転送管理局』此処には、一般に普及した魔導器『瞬間転送器』が置かれている。

魔導器とは、魔法陣や魔術文字、アーティファクトを組合わせて魔法を構成し、龍脈か ら強制的に『マナ』を徴収して、半永久的に特定の効力を発揮する機器らしい。その中の 『瞬間転送器』とは、非生命体に限り同質の『瞬間転送器』へ文字通り瞬時に転送する機 器である。

リリアが局内で手続きしている間ヴァイスは、建物の外で暇な時間を持て余していた。 暇つぶしをするにしてもこんな街中じゃ武器の手入れをする事もトレーニングする事も出 来ずに、ただ目の前を行き交う人の顔を眺めているしかなかった。

「………なんだかなぁ。」

リリアが建物の中に入ってから十分強。ヴァイスは呆けているのも飽きてきてだんだん 疲れてきた。とは言ってもこの場を離れたら命が危ない。結局虚ろな目で前方を眺める事 にした。

「ん?あれは――――――」

「――――――あ〜、やっと終わった。」

何故か異様に込んでいてなかなか順番が回って来なかったが、やっと手続きを終えてリ リアは、身体を解しながら建物を出た。すかさず左右に目配せをする。目的の人物はすぐ に見つかりリリアは、小走りでその人物の下へ赴いた。

「ヴァイスちゃん、お待た〜。」

「うん?あ、お帰り……。」

リリアは、ヴァイスの無機質な返答に違和感を覚え、問い掛けて見る事にした。

「どうしたの?ヴァイスちゃん。」

「さっきザックを見掛けたんだが、ちょっとな……。」

そう言ってヴァイスは、言葉を濁すのだった………。

第35話「幕間1〜ザックと『長槍』〜」

古津

俺の育った村は平穏と言う名そのものだった。

あの日、『長槍』を掲げた軍隊が押し寄せてくるまでは…。

その日、私の所属しているラングランス帝国軍第3遊撃軍は北の大国ノイエティアリとの 開戦に伴う、武威行為として、国境付近の村々を制圧する為に進軍していた。

すでに主力軍はノイエティリアの国境付近の主要都市『ラライ』を包囲し、陥落は間近と 思われていた。

我々がこれらの村々を占拠すれば、より戦況はラングランスに有利に進んでいくと言われ ていた。

さらに言えば、国境の村々での略奪行為は上層部もある程度までは目を瞑るのが不文律に なってたが故に、我々の足取りは非常に荒く、また時に残忍な音を響かせていた。

制圧する村の数は3つ。

我々は軍を3つに分け、私はその内の一つを率いていた。

我が部隊が制圧に向かった村は恐らく、制圧を命じられた村々では一番寂れていたのでは ないだろうか。

門としての働きを果たしているのか判らないようなドアの付け根が壊れている門。

周りからの攻撃を防げるとは思えないお粗末な木の塀。

そして、村の燃料をもたらしているであろう森が村の東側に茂っていた。

我が部隊は威風堂々とその村を制圧しにかかった。

しかし、ここで思わぬ出来事が起きた。

村の門が何とか閉じられていた。

さらには、塀から隠れているとお世辞にも言えない兵士らしき人間の構えている弓。

そう、交戦の意思を彼らは我々に伝えてきたのである。

そして、歴史には綴られる事のない凄惨な戦いが幕を開けた。

その日、俺はいつものように周囲の友と共に村の東にある森で遊んでいた。

すでに少年を卒業し、青年になっていた俺は、森で矢を射、友と木の枝で剣術の真似事を し続けていた。

その中で偶々、森の中でも一際大きな木に登っていたからだろうか、一人が叫んだ。

「おい、皆。何か変な旗を持った軍隊がこっちに向かってるぞ」

その友はその旗がラングランスの物だとわからなかったらしい。

別の友が木に登り、それを確認する。

すると、血相を変えて下りてきた。

「お、おい、ザック。あ、ありゃあ、ラングライスの軍旗だ!」

「なんだって!?」

ラングライスの名を聞いた別の友が声を上げる。

木に登って確かめる奴もいれば、どうすればいいかわからずおろおろしているだけの奴も いる。

「とにかく、親父に報告だ」

俺がそういうとその場にいた全員がそうしようと頷いた。

俺からの情報を聞いた親父はすぐに防備を固めると言って詰め所を飛び出した。

親父はこの村では一番の戦士だった。

昔はノイエティリアの正規軍の将軍にもなった事があるらしい。

まぁ、俺も村の友もそんな事は信じてはいないが、剣術も弓術も親父に全て教わった。

あながち嘘でもないんじゃないかと思いながら、教わっていた。

出て行った親父の後を追い、門を何とか閉め、弓を持って心細い堀に身を隠している親父 を見つけた。

「親父、どうするんだ?」

「ザックか。あれはラングランスの部隊だ。何とかしなければこの村は略奪の憂き目に晒 される。俺はそれを黙って受け入れることはできん。村長を始めとする村の重役も防戦を考 えている」

そう言って、ザックに自分の、そういつから持っていたかわからないくらいに古く、鞘に 豪華な装飾をされた剣を手渡した。

「ザック、これは俺が将軍の地位にいた時にノイエティリア国王に貰った剣だ。お前に預 けておく。もしもの時はこの剣で自分自身と皆をお前が守るんだ。いいな?」

決して断る事のできそうにない、重圧の篭った声。

こんな声の親父は初めてだった。

俺は黙って頷くとその場を走り出していた。

ただただ、走り出していた。

振り向くと親父が弓を構えて塀の外を睨んでいるのが見えた。

だから、気が付いた。

ラングライスがもうすぐそこに迫っているのだと…。