Party Live ::Act 26-30

第26話「樹々怪々」

無重力 2005/1/20

「木、ね。うん。いいや、この場合は樹といった方が正しいのかな。」

そんなことはどうでもいい。

巨大な幹を震わせてゆっくりとこちらに向かってくるのはまがう方なく大木そのものだ った。今日日の植物たるもの、大地にずっしりと根を張り巡らすのが相場だと信じていた ものだが、どうやら例外というものもあるらしい。

銀の肌を持つと謂われるツリーフォークの王族たちは、自らの繁栄のためにその脚をも って動くという。しかし、住み慣れた土を離れるということは時に死を伴う作業であり、 実際多くの巨漢たちが死を覚悟しているのだ。それは樹は歩かないという周知の事実を屈 返すものであり、自然の法則を捻じ曲げるきわめて特殊な手段ともいえる。

それだけに絶対数は限りなく少ない。彼らに出会うことができるのは、愚かにも樹たち の王国に迷い出た旅人か、彼らとともに生きる山の一族だけだろう。

「黒い。うん。なんだかいやな予感がするよ。」

しかし僅か200mほど前方に聳え立つその大木の老体からは、素人目にも分かるほどの非 道い邪気が放たれていた。そう、例えるなら目の前で何か大切なものが踏み破られたよう な気分にさせられる禍々しさ。

「御神木が...。」

声も無くその姿を見つめる女狩人たちの中で、辛うじて悲痛の声を上げたのが、先ほど まで死闘を繰り広げていたエルヴァーニだった。

何合とも判らず打ち合わされていた狩人の得物は力なく降ろされており、闘志のほどが 見られない。尤も、今すぐでも再開できるように最小限の間合いと構えだけは崩していな かったのは、戦士の中に流れるそれを象徴していたのであろうか。

皆が驚愕の表情を浮かべている中で、約二名ほどは平然とした表情をしていることに、 ヴァイスはまだ気づいていなかった。いや、平然と言うよりは寧ろ大物を前にする期待の 表情といったところか。残るリリアといえば、ぼけっとそれを眺めていたりしたが、まあ それはいつものことなのでどうでも良い。

「貴様ら、御神木に何をした。」

滲み出る憎悪のほどを隠そうともせず、深い息を以ってエルヴァーニは睨み付ける。実 際、それは一つだけではなく、続いて周囲のアムルレスたちにも次第に広がっていった。 威眼とも言うべきか、誇り高い一族のそれ一つ一つには、弱者を萎縮させる強い気が込め られている。

「おおっと、嬢ちゃんたち。そいつは逆恨みってもんだぜ。」

その程度に怯むほど、連戦の将も矮小ではない。その一言に、詰め寄っていた視線が僅 かに反れるのを感じた。余裕綽々に言いのけるザックの表情からは、確かに何かを把握し ている様子が伺えたのだ。

「どう見ても貴様らの仕業だろうが。」

「おいおい、俺たちみたいな素人にこんな大掛かりなことできるはずが無いだろう。」

昨日までは神として崇めてきた存在だ。それが突然邪に染まったところで、到底納得の できるものではない。ましてや新参者がのこのことやってきて昨日今日。疑いたくなるも の無理は無い。

様子が違うことにやっと気が付いたリリアは、困ったように一度ヴァイスと顔を見合わ せると、てくてくとリーネのそばに寄っていく。

「えっとー、解説のリーネさん。状況はどうなっているんでしょーか。」

「ってー、もしかしてあんた気づいてなかったの?」

「え?」

リリアが目を丸くする。続いてヴァイスも。気にしていないようにも見えるが、アムル レスの幾人かもこちらに注意をやっているようだった。

リーネは華やかなものが好きだ。ついでに言うと目立つのもわりと。ここぞとばかりに ふふんと前に踊り出ると、一発解説のお嬢さんを演じてみることにした。

「注目ー」

なんとなく収集をかけてみるリーネ。もうあと100mほどに樹が迫っていたり、ずしんば たんと周囲の崩壊が始まっていたりするがそんなことはお構いなしだ。どうせこういう厄 介事はザックの馬鹿者に全て任せればいい。

というのも、無駄に事を大きくして無意味に体力を消耗させたのもすべてザックのせい だからだ。あの大馬鹿者。

「まー、つまりはあれよ。とっくに汚染されていたのよ。あの樹。」

思いっきり端折ってみる。それでは詰まらないのでもう少し噛み砕いてやる。

「てきとーにそこらへん歩いてたら見つけたわけ。そしたらもう、いかにも黒いですっ

ていう樹にぶち当たるんだもん。もうびっくりしちゃって。」

次は幾分か脚色して解説してみる。しかも小馬鹿にしたような言い草だ。アムルレスの 幾らかが、悔しそうに顔を背けるのがわかった。

そりゃそうだろう。いままで神木として崇めていたはずの存在が、実は邪悪だったんだ から。

「まー、でもその黒さに思い当たりがあってね。ちょっと放っとけないなと思った訳。

そしたらザックちゃんたらいきなり喧嘩吹っかけるんだもん。」

もー信じらんないー。とか付け加えてみようかとも思ったが、そこまであーぱーなキャ ラとして見られるのもアレなので止めといた。

「おーい、リーネ。お喋りもその辺にしておいて、こいつ。どうにかしろよ。」

早くも目前に駆けつけていたザックとヴァイスは、呆れたようにこっちへ来るように促 した。何せ相手は御神木。並みの攻撃じゃびくともしないことは目に見えている。

試しに斬りつけてみて、その手ごたえからザックは確信していた。

「間違いないな。この変異ぐあいは“例”の奴とそっくりだ。」

そう、先日対峙したサンドウォームのその影に。

第27話「共闘戦線?」

古津

「やれやれ…」

呟いたのはザックだ。

目の前の(御神)木を前にしてもやはり余裕を隠さない。

周りが混乱してる状態だとこのような態度を取る奴がいることは稀だ。

周りのアムルレス達がザックを見ると言うか睨む。

そんな事を気にもせずにザックは前に出る。

「あれを止めれなければ終わりだ。まぁ、俺にはこんな村を助ける義理はないが…」

「はーい、それ以上話をややこしくしない」

ザックの言葉を遮ったのはリーネだった。

「どの道、あれは私達も襲うわよ」

「な、御神木をあれ呼ばわりだと!」

リーネの言葉にアムルレス達がいきり立つ。

「やれやれ、そっちはもう戦える奴が少ないだろ?ここはあいつに任せなって」

ヴァイスがエルの肩に手を置く。

そう、リリアの肩に手を置いて話すように…。

「私に触るな!!」

そう叫び、飛びのくエル。

「汚らわしい!!」

これから集落を救おうとしている人間にそれかよと思いながらヴァイスは前に出る。

それに続いてリリアが出る。

「エルちゃん、怪我人を安全な所まで非難させておいてね」

そう言い置き、リリアはすでに(御神)木へ攻撃を始めた仲間に合流した。

(御神)木と言われていた黒き木は歩みを止め、その場に鎮座していた。

リーネはすでに何かの詠唱を始めたようだ。

そして、ザックは再び飛び掛っていた。

「ザック!?」

ヴァイスが大声を上げる。

当然のように斬り付けはするもののほんの少し切り傷が付いただけだった。

「ちっ、やっぱり並みの剣じゃ無理か…」

と言いつつも胸に閉まってあるペンを出そうとはしない。

しかし、ザックが斬りつけた事にで鎮座していた黒き木の気はこっちに向いたようだ。

黒き木の根がその場で暴れだした。

「えっ」

根が地面を叩きつける度に地面が揺れる、大気が震える。

そして詠唱中のリーネの体勢が崩れ、詠唱が中断してしまった。

「な、何!?」

よろけるリーネを支え、リリアが叫ぶ。

暴れている根の一本が最前線にいて、一度斬撃を加えたザックに襲い掛かった。

その根を紙一重で避け、刃を根に叩きつける。

幹は無理でも根の方は切れるようだ。

斬りつけたザックの剣は根を一刀両断にした。

何かを閃いたようにリーネが叫ぶ。

「ザック!根をどんどん切って!!」

「何でだ…」

「いいからさっさとして!」

「…」

リーネの言葉がザックの言葉を遮り、ザックは黙り込む。

それでもザックは根を斬りに向かった。

さらにリリアがフレイムボムを幹に向かって投げ付け始めた。

「ヴァイス!リリアをしっかり護んのよ!!」

呪文詠唱をこの状態でできないリーネがどんどん指示を飛ばす。

リリアはぽんぽんとフレイムボムを投げ、ザックは次々と根を斬る。

そんな中、ヴァイスはその言葉の通り、身を挺してリリアを護っていた。

盾で防いでる部分以外は全て体で受けているのだ。

避ければいいのだが、避けるとリリアに当たるかもしれないという事でリーネに禁止さ れていた。

その上、根を斬り続けているザックからもなぜか睨むような視線を感じた。

「なんで、俺が毎回こんな目にーー!!」

と、心の中で叫び、襲いくる根を防いでいた。

ヴァイス達が(御神)木と戦闘を開始した時、エルを中心としたアムルレスはザックによ る怪我人を集落の救護小屋に運び込んでいた。

全ての怪我人の収容を済ませた後、エル達は手に武器を持ち、集合していた。

「我らの集落の運命を奴らのような薄汚い男共にかけるなどできん!」

そう言い、元御神木を打ち倒そうと言う者と

「御神木は我らの神、あの男達こそ倒すべきだ」

と言い、御神木が我らの集落にやって来るのは何かあるのだと言う者に議論が割れた。

そんな中、エルは一人黙ってその様子を見守っていた。

そして、両派共にエルの裁断を待つ状態になり、エルは口を開いた。

「我らはアムルレスの戦士。護る物は戦士としての、そして森の民として誇り」

そう話始め、立ち上がる。

「御神木とは言え我らの護る森を荒らす者を防がず、また戦士として敗北したままでは 両方の誇りを護ることができなくなる」

戦士として敗北と言う言葉を聞いて、ザックと戦った者に冷たい物が流れた。

「我らは森の民、そして戦士として戦う。まずはあの黒き木を撃ち払い、その後にあの 剣士を殺す。アムルレス狩団、行くぞ!」

そしてエルが走り始めると狩団のアマゾネス達がその後を追い始めた。

第28話「窮鼠猫を噛まず」

トラねこ 2005/02/08

御神木と呼ばれた怪物は根を地に叩きつけ、大地を揺らす…。その振動は生き物に恐怖 させ、動作を鈍らせる。結果、体制は大きく乱れ、決定打を与えられない。

しかし、脳という機能を持たない『樹』がそこまで打算的な行動を取るだろうか?

…もし、その行動が本能的なモノだとしたら?

そう思った瞬間、ある考えが頭を過ぎる。

――いけない。そうなったら…まず、手に負えない。

―――――

「ヴァイスちゃん。ザックちゃんに加勢して」

後ろからリリアの声。その口調はいつもより余裕がなかった。という事は、今の状況は かなり危ういらしい。それも、自らの保身を捨てるほどの…。

「わかった」

と残し、巨大な大木の前に出る。後ろでリーネが非難の声をあげる。…どうやら、リー ネの指示とリリアの考えは違うようだ。

しかし、リリアは一体何を予期しているのだろうか?依然として樹は手当り次第、根を 武器に周りを破壊していく。時折、地面から根が飛び出し、攻撃してくるが…。それが何 か関係しているのだろうか?

―――――

木は決して火に弱いワケじゃない。特に大樹の場合、幹に大量の水分を含んでる。だか ら目の前の怪物を葬るには『炎槍』ぐらいの火力が必要…。でも、この魔術は高度な詠唱 を要求されるから、この状況では私にはとても唱えられない。そして、リリアが夜な夜な 作って補充しているフレイムボムではたぶん、火力が足りない…。

…だったら、フレイムボムで仕留められるぐらいに弱らせれば駆逐できる。高度な詠唱 でもないから唱えきれる…と思う。しかし、ザックが根を切った時に閃いたのだけれど、 まさか使う日が来るとは思わなかった。

「…にしても、壁がいないと詠唱出来ないじゃないの」

と、リリアに講義してみる。リリアは自分たちの手前にフレイムボムを投げた。轟、と 火柱が立つ。

「取り合えず、これで凌げるよ。詳しい事はアムルレスの人達が戻って来たら…ね?」

「…詳しい事?」

返答は沈黙。どうやら頭の中で作戦を練ってるらしい。よくこの状況で考え込めるなぁ …と感心しつつ(無視しやがったなぁ、こんにゃろう。…なんて思ってない)、リリアの 前に立つ。来るかもしれない根の攻撃に備えて。

――程なくして、エルヴァーニ率いる集団が戻ってきた。声が上がる。

「弓部隊、火を放て!狩部隊は根による攻撃を防げ!」

「なっ――」

大樹に向けて火を付いた矢を構える。その先にはザックやヴァイスもいる。

「こんな、地響きの中で打ったら同士討ちになるじゃないの!!」

その言葉を聞いてエルヴァーニ・ミグドリアがここに向かってくる。そして、無情にも 矢は弧を描いて樹に向っていく。

「我々は御神木を討つ事を決めたが、お前達と馴れ合う気はない」

「それに同士討ちになる筈がない。元より同士ではないのだから」

その言葉は淡々としていて、無性に腹が立った。

「この――」

「――今、討論してる場合じゃないわ」

私の言葉を遮って、リリアが言った。

「端的にいうと、あの樹はここに根を下ろす気よ」

リリアの説明は続く。

「根を張っていた大樹が移動したのは、養分が足りないから」

「私達に向かってきたのは、この辺で養分が密集しているから」

「地面を叩いているのは根を下ろし、この周りの養分を根こそぎいただく為」

「こう考えると、あの樹はエナジードレインに特化してる事になる」

「今は養分を摂取してない様だけど、もし根を下ろしたら私達では止めようがないわ」

一時の沈黙。そして、エルはこう言った。

「…それでも、我々は協力する事はできない」

「私はここで生まれ育った。だから男に対し直接的な憎悪はない」

「しかし、多くは男に失望してここに来た女達だ。例え村が滅んでも、『在り方』だけ は変えるワケにはいかない」

「あぁ〜もう、そんな事言ってる場合じゃないでしょ!!」

「今の拙い状況が分かったんなら。対処しなさい!!」

この女の理屈は分かったけど、知った事じゃない。根を下ろされると勝ち目が薄くなる んだったら、根を切ればいい。その結果が共闘という『カタチ』になっても自分達がそう 思わなきゃ『共闘』じゃないんだから。

「『男に交じって戦う』行為そのものが出来んと言っているのだ!!」

「…その点なら心配ないぜ」

――突然の声。振り向けばヴァイスがザックを担いで戻って来ている。ザックは気を失 っているのか動かない――

「ちょ…どうしたのよ?」

「…根の猛攻撃にあって気絶した。今まではかわせていたんだが…」

ヴァイスが続きを言うのを渋る。あぁ…『後ろから矢が飛んできたせいだ』と言えない のか…。女将がここにいるし…。

「――ま、まぁ、とにかく俺一人じゃ相手にできない。疲れたし」

「俺は身内2人の護衛に付くから、あんた達が戦ってくれ」

その女将はヴァイスを一睨みし、また暫しの沈黙、そして答えた。

「……よかろう。」

「総員、武器を取れ!!これより根を斬り払う!!黒き木をこの大地に居座らせるな!!」

命を受け、アムルレスの女達が動く。そこに迷いはない。そして、女将は言葉を残して いく。

「…我々は戦う。だが、勘違いするな。私達はお前達に協力するワケではない」

「…呆れた。最後まで悪態つくなんて」

なんて呟いて見ると、リリアとヴァイスが私を見て苦笑いをしていた。なんだかいい気が しない。

「こほん、…リリア。つまり、あのバカ木を孤立させて駆逐するんでしょ?」

「え?え〜っと…そうだよ。フレイムボムを全弾放るつもり。詠唱は無理でしょ?」

『最も、それで駆逐できるかはわからないけど』なんてジェスチャーを取る。

依然、続く地響き。まぁ、『炎槍』は無理なんだけれど……

「…試したい術があるの。その後でフレイムボムを投げてくれれば助かるんだけど…」

「…りょ〜か〜い。…でもあまり無理はしないでね…」

―――――

事態はかなり拙い状況…。地響きの回数は当初と比べれば少なくなり、邪気を纏った樹 はその場を動かない。どれくらい根を下ろしているんだろう?…なんにせよ、フレイムボ ムと火薬の調合で幹の内部まで殲滅できるか危うい。

アムルレスの人達は根を斬り払ってくれている。しかし、これだけの大物を相手にした 事がないのか、数人は無残に体を貫かれて絶命していた。根は突き刺さったまま、死体は 水分を失うかのように萎んでいく。

やはり、生命力を吸収できるらしい…。

…エル率いる狩団は仲間の死を省みず。ひたすら命を忠実に実行している。その姿は勇 ましいけれど、正直、これ以上、死者を出したくない。

「そろそろ行動に移すよ?いい?」

「了解〜」

「…………」

詠唱が始まった…と思いきや、早めに詠唱が終わる。詠唱が終えたというのに周りは特 に変化がない。リーネにしては珍しく地味な魔術だと思った。

「そこにいると巻き添えくうわよ!!」

その声に反応して、アムルレスの集団は蜘蛛の子の様に散っていく。そして、意外な術 名が飛び出した。

「――脱水

―――――

大樹の根から気化した水分が抜けていく。この術は水系の魔法を覚える気がなかった私 が、冗談半分に覚えたモノ。ホントに使う日が来るなんて考えなかった…

ありったけの魔力を『脱水』にのせる。水分の抜けた木は枯れ木と同じ…それなら火力 を補うには効果がある筈…。

――ズキッ

何故か胸に痛みが走る。不純物が体内に溜まっていく間隔…。――まさか、そんな…… 意識が朦朧とする。

――せめて、この術を少しでも延ばさなければ。

―――――

邪気を纏った樹から水蒸気が上がっていく。想定外の出来事にリリアは喜んでいた。し かし喜びも束の間、リーネが胸を抑えている。まさか、リリアが言っていた魔力循環の不 調が原因なのだろうか?

――ゆっくりと周りを包んでいた水蒸気が晴れ、リーネは倒れた。それにリリアが気づ く…声をかけるがリーネの返答はない。不安が当り、混乱していた様だが、直に冷静さを 取り戻し、フレイムボムを全弾放る。樹の周りに火柱が上がる。そこに――

「お願い。これで終わって――」

サンドウォーム戦でアリの大群を葬った火薬を試験管ごと投げる。それが火柱に入った と同時に爆音が木霊した。この破壊力は『爆炎』に匹敵するんじゃないだろうか…。

凄まじい熱気に目を瞑る。

「………」

視界が煙に包まれるなか、御神木と呼ばれたそれは…付けていた葉、枝が吹き飛び裸同 然だった。しかし、幹は損傷が目立つものの立っている――。そして僅かではあるが損傷 箇所を再生させていた。

…まずい、俺達にまだ打つ手が残っているのだろうか――その時、

「――惜しいな。あと一手という所か」

――上空から声。見上げると空中浮遊している男がいた。そして、聞き取れない程の高 速な詠唱。触媒の宝石が魔力に呼応して輝いていく…詠唱が終わったかと思うと、今度は 触媒である宝石を黒こげの木に向かって放った。

「咲け…"罪人を喰う花"

魔方陣が発現し、先程の樹が起こす地響きとは比べ物にならないくらいの振動と轟音。 現れた幾重の巨大な刃が大樹を細切れにしていった。その光景をただ、唖然と見ている…

リリアも次元の違いに目を丸くしていた。

「ちっ…。もう一手か…これだから古樹は…」

ぶつぶつ言いながら。また詠唱を開始した。今度は触媒である宝石を上へ…そして――

「――"選定者の裁き"

上空にできた魔法陣から光が降り注ぎ、強敵だったモノを包んだ。その光が視界を白く 染める――

…段々と視力が回復すると、あれだけ苦戦していた怪物は跡形もなく消滅していた…。 圧倒的だ…こんな人間がいるなんて…。

ただ唖然としていると、男はいつのまにか前に立っていて――

「や、また会ったな。…って言っても話しかけた事があったか…」

――なんて、気さくに声をかけてきた。

第29話「事後処理」

男爵 2005/02/21

「・・・・っと、そんな場合では無かったな。」

男――確かアドナルドとか言ったかな?――は、特に慌てた様子も無くそう言い、自分 の懐を探り始めた。リリアは、倒れたリーネを抱えたままいきなりの展開に付いていけて いないようだった。まぁ、俺もそうなんだが・・・・・・。

「これをリーネに着けてあげなさい。」

アドナルドがそう言いながら懐から取り出したものは、ダークエメラルドの飾りだった。

「・・・・あ、・・・・・・え・・・・?」

「すでにゲートウェイの加工は済ませてある。私の予備だ、まだまだ有るから遠慮なく

使いなさい。まぁ、リーネの物より純度は落ちるが無いよりは良いだろう。」

まだ付いていけていないリリアにアドナルドは、説明をし使用を促す。

数秒後、硬直から脱したリリアが飾りをアドナルドから受け取り、少し慌てながらリー ネに装着させた。するとさっきまで苦しそうにしていたリーネの呼吸は、少しずつ穏やか になっていった。

「これでもう大丈夫だろう。全く、無理をしやがって・・・・・・。」

「あ・・・・・・は、はい。ありがとうございます。」

「ん?礼には及ばんよ。・・・・・・自分の為でもあるからな(ボソッ)。」

「え?何ですか?」

「いや、なんでもない。」

アドナルドのおかげでリーネの問題は解決したようだ。ザックもただ寝ているだけだし 心配は要らないだろう。どうやら現状では、こちらには支障は無さそうだった。そう、こ ちらには・・・・・・。俺はそう見当をつけて怪物の残骸の方に足を向けた。

「・・・・・・・・・・恐ろしいな。」

怪物はまさに木っ端微塵となっており、無理な変異をしていた為少しずつ小さな粒子状 に崩れていた。にも拘らず、その周囲はほとんど破壊されていない。恐ろしい程の破壊力 と精度。魔法の知識のほとんど無いヴァイスでさえアドナルドがどれほどの高みに居るの か尊敬と畏怖を同時に感じてしまう。

「目標は完全に沈黙・・・・っと。」

元御神木の死滅を確認した後、そばに転がっていたアムルレスの死体を見つけその死体 に歩み寄り、抱えあげた。――――と、その時――――

「――――男が我が同胞に触れるな!穢れる!!」

声を荒げながらエルヴァーニは、ヴァイスを突き飛ばした。

「うぉ。てめぇ・・・・・・――――」

「これからこの娘は、楽園<エデン>へと旅立つのだ。穢れた男などが触れては、魂の

選定に支障をきたしてしまう!!」

「――――なっ。」

「この娘は、聖者となるのだ!誇り高き死を貴様などに――――」

視界の隅でリリアが何か言い返そうとしているのがわかった。しかし対象との距離のせ いだろう。俺の方が一瞬早かった。

――――――ッパアァァァァァァァン!――――――

乾いた音が辺りに響き渡った。おそらくその場に居た全員の注目を集めていただろう。 しかしそんな事は気にならなかった。何故なら俺は、キレていたのだから・・・・。

「何を――――」

何をする。そう言いたかったのだろう。エルヴァーニは、俺が引っ叩いた頬を押さえた まま俺を睨み付け罵詈雑言を吐こうとしていた。しかし俺は、そんなものに付き合ってや る気は無い。

「『誇り高き死』だと?今そう言ったか?」

「・・・・え?・・・・・・そ、それがどうした。」

どうやらエルヴァーニは、俺の雰囲気が変わった事に面を食らっている様だった。言葉 に覇気が無くなり、完全に聞き手に廻っている。

「ふざけるな!!テメェは何様のつもりだ。神様のつもりか?」

「な、なにぃ?」

「『誇り高き死』だと?それじゃあテメェは、誇りのために仲間を殺したのか?」

『仲間を殺した』そう言われてエルヴァーニは、カチンと来た様で、俺に噛み付いてき た。

「殺したのは、怪物だ!我等は最善の戦闘を行った!」

「本当に最善だと思っているのか?だとしたら根っこまで腐った阿呆だな。」

「き、貴様ぁ――――」

「最善だと言うなら何故俺達と共同戦線を組まなかった?誇りのためだろう?この際だ

から言わせてもらうが、最初から共同戦線を組んでいたら戦死者は減ったはずだ!俺は

ともかく、アイツが居れば間違い無くな。」

そう言いながら俺は、眠っているザックの方を視線で示した。それに関しては実際に戦 ったエルヴァーニは、反論できない様子で沈黙しているだけだった。

「他者の命より自己の誇りを重んじるのは戦士じゃない。ただの狂信者だ。今、俺は戦

士でない者の言葉を聴く気は無い!」

「ぬぐっ・・・・・・。」

俺は、返す言葉を失っているエルヴァーニの脇を抜けて、名も知らぬアムルレスの死体 を抱え上げた。

一部始終観察していたリリアは、小さな声で、

「ちょっと格好良いかも・・・・・・。」

と、つぶやいた。するといつの間に気付いていたのかリーネがリリアに反論した。

「そう?半分聞いてなかったけど、結構支離滅裂よ。」

「うん。でも内容は間違ってないよ。」

「どっちでも良いわよ。もう疲れちゃったから何処かでゆっくり休みたいわ。」

本当にどうでも良さそうに言うリーネ。しかし、疲れたのも事実。さて、どうしようか な・・・・・・。

第30話「夢葬諷陰」

無重力 2005/2/23

南天に入道雲が一つ遮って、陽もそろそろ翳り始めたころ、狩人達の葬儀は小古曽かに 且つ慎ましく行われていた。以前ほどの棘々しさは無く、ただ仲間の死を悼む葬列の中に は、静寂だけがひどく大きく聞こえていた。

死者9名、重傷者20余名。60人弱の集落としては、ほぼ壊滅状態といっていい。この数 字が多いのか少ないのかは、正直良くわからなかった。しかし御神木という“大黒柱”を 失った今、村の再建は難しいと言っていい。

「リーネちゃん、お香は済ませた?」

珍しく翳りを落としたリリアの右手には、花が握られていた。可憐に白く咲き乱れる一 束の木春菊(マーガレット)。やや季節はずれの感も否めないが、少なくとも意思くらいは伝わ っているだろう。

死者に添えられるでもなく、白い手向けは未だ細い腕の中に収まっていた。

「私がそういうことをする人間に見える?」

「見えない。」

「見えない。」

即答。しかも二倍になって返ってくる。いつの間にか葬列を離れたザックが、鳴らない 口笛を口ずさんでいた。

手ぶら。腰には何も佩いていない。彼ご自慢の長剣は、未だ地面に突き立てられたまま だった。樹との攻防の途中で力尽きた戦士。何を思うのかは知らないが、その時手にして いた剣はまだその手に回収されていない。

「まー、あれよ。いまさら失ったものを悔やんでも、どうにもならないってわけ。」

地面に座り込んだままリーネは無感情につぶやく。時折右手のそれを陽に翳しながら、 具合を確かめていた。

「....今日は今日の風が吹く、か。」

何か懐かしいものを見るような眼で、ザックは入道雲の影に入り込んでいく太陽を追っ ていた。

「昔の馬鹿に、そんな事をよく言っている奴がいたっけ。」

「なによそれ。」

視線を背中に受けながら、リーネは黙々と自分の作業を進めていた。正直あまり暇では ない。が、下僕どもの間にどうにもセンチな雰囲気が漂っていくような気がしてならない。 いやな風だった。

聖歌なのか祭歌なのかよくわからない狩人達の詠唱が終わると、さぁっと一陣の静寂が 吹き抜ける。どこかにヴァイスの寝息が混じっているような気もしなくも無いが、たぶん 気のせいだろう。

静けさに乗じて純粋なスペルを一つ唱えてみせながら、手の中のそれを転がすことを止 めなかった。

「ま、あれだ。今回の件は再検討すべき点が多いな。」

後ろを向いているので見えないが、たぶん頭でも掻いているのだろう。状況が悪くなる と始めてしまう、ザックの悪い癖だ。

「何よ。説教?」

「違う、反省だ。」

時折光をひどく反射するそれは、吸い込まれそうなほど冥い球体をしていた。さっと軽 く平手を通すと、僅かな振動が返ってくる。ずっしりとした重み。容積にまるで見合わな いひどく詰まったその塊。

「愚痴なら余所でやって頂戴。」

「...厳しいんだな。」

リリアの声が聞こえないと思ったら、どこかへ行ってしまったらしい。おおかた空腹の 文字でも覚えたんだろう。ヴァイスも寝こけてるし、しじまを破るものといったら葬列の 連中と後ろのザックしかいない。

キンと耳に金属音のようなものが響くと、断片だった振動が徐々に広まっていく。見た 目に振れているわけではないが、確かに手ごたえは感じていた。

「共鳴(レゾナンス)完了、と。」

掌中には、もはや魔力を注ぎ込むことなく振動するそれが転がっていた。これで第一段 階は突破したと言っていい。しかし難しいのはこれからだ。

「何やってんだ?さっきから。」

「ん、共鳴だけど。」

はあ?という疑問符が広がる気配を感じる。さっきからずっとこっちに集中しているか ら、ザックの表情は見えていない。しかし直視せずとも認識できるほど、今のザックには 隙が多かった。

「ま、何でもいいや。」

よいせっとじじくさい掛け声を上げると、隣の草むらに腰を下ろした。山の西風が長身 によって遮られる。ううんと伸びをすると、ザックは大地を背にして寝転んだ。

別に何でも良くは無い。大切な作業だった。共鳴を続ける球体は、次第に内包した情報 を吐き出し始めていた。記憶と歴史。強大な魔力を秘めた物体には、どうしても術者のプ ロファイルが含まれてしまう。そのメタ情報を取り出すのが今の作業。

「そーいや、あのじじいから貰った宝石はどうだったんだ。」

胸元には、肌身離さず持ち歩いていたエメラルドの下に、一回り小ぶりの宝玉が煌いて いた。さして装飾も施されていない、無骨な家宝に比べ、貰ったそれは装飾で着飾られて いる。余程の物好きでないと、こんなものをただではくれないだろう。

「あー、これは順調。正直あんまり使いたくないけどね。」

新しいエメラルドとの同調はとっくに済ませている。他人の作の割には、気味の悪いほ ど相性が良かった。しかし、いけ好かないことには変わりない。

「まあ、確かに趣味は悪いかもな。」

引き出したメタ情報の解読を進めていくうちに、次第に具体的なことが判明してくるよ うになった。共鳴(レゾナンス)は成功だ。もしかしたら、このまま同調(シンパシー) まで持っていけるかもしれない。

その前に、少し手に入れた情報を纏めてみることにする。

「これ。この球なんだけど。」

初めてザックの方に顔を向けると、手にしていた直径10cmほどの暗闇い球体を翳して見 せた。その禍々しさは、魔法感知力を有していない人間でも十分認識できるほどである。

「あの樹の中枢(コア)だから。」

訝しげに覗いていたザックの表情が、一瞬のうちに翻った。

「な、まさか・・・」

「そ、あたり。こいつが操ってたのよ。御神木、もとい食人樹をね。」

裏を返してみれば何でもない。ただの強力なマジックアイテムだった。それがあんなに 大きなものに取り憑いたから、こんな惨事になっただけである。

「これは金気に属する宝珠。これが樹木の中に入っていた事の意味がわかる?」

金は木を克す。こちらで主流の属性学でも、木と金は互いに相反する要素である。金は あらゆる無機質を統べる属性。別離と戦いを司る。木はあらゆる有機質を統べる属性。生 命と統合を司る。

「既に侵され狂っていたと言うわけか。あの神木は。」

「しかも意図的にね。犯人の像は大体読めてきたわ。」

ころころ転がしていたものを、すっと、宙に放り投げる。穏やかな弧を描きながら空に それは溶け、再びリーネの掌中に収まった。

「錬金術師....か?」

月並みすぎる。つくづくつまらない男だと思った。もう少し捻りようがあるというもの だ。それじゃそのまんまじゃないか。

「ま、ご想像にお任せして、作業の続きをするわ。ちょっとこれから面倒な儀式を始め なきゃいけないから、貴方はどっかそこらへんで遊んでなさい。」

「あー?」

適当にザックを追い出すと、静けさなところを見つけて簡易な魔法陣を組んだ。

これからが本番だ。別に狩人達の敵を取るわけでもないし、錬金術師が憎いわけでもな い。ただ、これから始まる儀式の期待感に、胸が躍っていた。

今度こそ球体を空に放り投げると、魔法陣の中心で停止させた。気を高める。徐々に蓄 えられた純魔力が満ちていく。貰ったエメラルドはフル稼働していた。

「こんな珍しいもの、滅多に手に入らないんだから。」

これで「金」の術を使いこなせるようになるっ