Party Live ::Act 16-20

第16話「馬鹿と鋏」

2004/11/09 トラねこ

二人を囲う様に三匹の蝙蝠が飛び回る。その動きは素早く不規則で迂闊に攻撃を繰り出 せば毒針の攻撃を受けかねない。慎重に間合いを読み、持久戦に持ち込むのが妥当だが… 聞こえた罵声からその余裕は無さそうだ。

そう考えるとザックは剣を上段に構え、突破口を探す。ヴァイスはカタールを装着し、 手当り次第攻撃を繰り出していた。が、敵−アインアイバットに命中せず攻撃がむなしく 空を切る。

「あ〜…鬱陶しい!!当りやがれ〜!!」

と、ぶんぶん両腕を振り回すヴァイス。…鬱陶しいのはおまえだ。蝙蝠は依然と間合い を取っているかの様に飛び回る。蝙蝠の突撃に合わせて剣を振るうも避けられる。予想以 上に厄介な敵だ。

――それならば。…とヴァイスを見る。…毒針にやられたらしく、体制を崩したヴァイ スの後ろを地を這うように敵が――

「ヴァイスっ!!後ろだっ!!」

「――っ!?」

声に反応したのか、ヴァイスが咄嗟に腕を揮った。敵は当然のようにそれを回避する。

――捕えたっ!!

回避直後の動きは直線…そこに寸分の狂いもなく剣を振り落とす。結果、蝙蝠の死骸が 地面に落ちた。

「無闇に攻撃を繰り出すな。…隙が出来るぞ」

「…うるせぃ」

なんにせよ、これで残り二匹。と、その時――

「グォォォォォ」

狼らしき雄叫び。不安が過ぎる。

「ヴァイスっ!!ここは任せたっ!!」

「なっ!?」

手薄となった包囲を突破し、走る。あの雄叫びは恐らくウルフ族。例えサンドウォーム を倒せる威力があろうが、護衛もなしで速さが主体のウルフ族を相手にするのは難しい。 つまり相性が悪いのだ。夢中で草木を掻き分ける…

無事で入ればよいのだが…。

――――――

――詠唱できない。狼男の攻撃は単調かつ大振りだが、空を切る風音が直撃した場合の ダメージを鮮明に想像できる。正直生きた心地がしない。逃げ出したい。でも、へたに敵 との距離を離すと負傷を追っているリリアに危険が及ぶ事は明白だった。それだけは避け なければいけない。もう、あんな想いは御免だ――。すると遠くから当人であるリリアの 声。

「リーネっち、離れてっ!!」

見ると、上空に砂漠の一戦で見慣れた物が宙を舞っている。

――って、もう投げてるっ!?

弧を描くフレイムボム。逃げなくては――と思った瞬間、予想外の展開に気を取られて いたのか、狼男の太い腕が攻撃を繰り出していた。咄嗟に杖で防御するものの、繰り出さ れたその衝撃は到底緩和できず、後方に吹き飛ぶ。

「痛っ――」

地面に手を付く。視界が歪む。でも常に前を睨む。朦朧とした意識の中、視界には轟々 と燃える火柱と人の様な影。その光景は近日の出来事を彷彿させ、ただ痛かっ…た――

――――――

轟と上がる火柱。それは居場所だけでなく、最悪の事態ではない事を仲間の告げる狼煙 だった。ザックはその場所へ駆ける。そこで目にしたのは半身を焼かれ蠢くウルフバーバ リアンと地に手を付いているリーネ。そして、片腕を負傷しているリリアだった。

無意識に剣を強く握り締める。

「も、もう…遅いよ〜」

安堵した声。でも無理をしているに違いなかった。そして、リーネの声が聞こえてこな い。

「リリアさんはリーネの傍に。…恐らく気を失ってる」

「えっ?…でも独りで大丈夫?」

「大丈夫。獣人は大抵馬鹿だ」

苦笑交じりの了解の言葉を聞き、それと同時に威嚇として放っていた殺気を抑える。敵 を見据え、確実に仕留めるそのために。体毛に覆われた胸辺りの焦げ目…恐らく剣が通じ ないだろう。…だとすれば――

敵、ウルフバーバリアンが突進してくる。その動きは単調で、バックステップを踏みな がら首の太さはありそうな腕に剣を振り落とす。案の定、覆われた毛が衝撃を和らげ、腕 を切り落とせなかった。再び間合いを取る。

バーバリアンが唸りを上げ威嚇する。こうなった犬は隙を見せ次第、直進してくる。の で、あえて視線を逸らす。その瞬間、敵の突進に合わせて自分も突進する。狙うは一点、 体毛の薄い首――

刹那の激突、そして獣人の首が飛ぶ。

――カウンター。魔法で貫けない強靭な肉体も綻びはあり、そこに互いの突進を合わせ て倍化した威力を叩き込めば当然の成り行きだった。

「はぁ……、馬鹿と鋏ね…」

と、関心するリリア。その言葉だけで生きていてよかったと思うザックだった。

第17話「運は実力!」

2004/11/15(月) 男爵

状況は最悪だ。

いきなり3匹のアインアイバットに襲われ、その内1匹を何とか倒して、光明を得たと 思った途端これだ。

ザックの野郎は、俺を見捨ててリリア達の加勢に向かった。そこまでは良い。何故帰っ て来やがらない。・・・・・まぁ、予想は付く。大方、向こうでリリアから感謝の言葉で も貰って、有頂天になってこちらの状況など忘れてしまったのだろう。アイツは、自分の 事をクールガイだとか硬派だとか思ってるらしいが、アイツ程根が軟派な奴は知り合いに 居ない。おそらく俺とは、一生相容れない存在なのだろう。

もう何分こうしているだろう。

仲間を倒され、幾分慎重になった2匹のアインアイバット相手に目で牽制しながら対峙 していた。攻撃しないのは、別にザックの忠告を聞いている訳じゃなく、ただ単に疲れて もう腕が限界だからだ。さらに右肩と左足が毒針を受けてジンジン痛む。アインアイバッ トが常にこちらの隙を覗っているので、途方に暮れている暇さえない。

ここまで極端なピンチだと、人ってのは逆に冷静になるらしい。が、冷静に状況分析を すると、今の所絶望的なモノでしかない。

「さて・・・・・どうするか。」

下手には動けない。隙を見せようものならすかさず襲い掛かった来るだろう。それにカ ウンターを合わせるなんて芸当は、俺には出来ない。こう言った鋭い爪や牙を武器にして いるタイプのモンスターは、主に急所を狙って攻撃してくる。さすがに俺でも頭、首、心 臓等を潰されたら死を免れない。毒針の方も、リリアのおかげ?で死ぬ事はないだろうが 軽視して良い怪我じゃない。助けは・・・・・・・期待して良いのか悪いのか・・・・。

「・・・・ん?」

気のせいか?さっきよりアインアイバットの周回軌道が近いような――――――

クラッ――――――

「うっ・・・・・・・・。」

ヤバイ!とは思ったが、体が言う事を聞かない。

俺は、重力に引かれるまま体を地面に横たえてしまった。

キィィィィィィィィィィィィィィィィッ――――――

その隙を逃すまいとアインアイバットの片割れが上方から奇声を上げて襲ってきた。

瞬時に俺は、何とか動いた左腕を使って転がり、襲撃を躱した。すぐに体勢を立て直そ うとしたが、そこまで体が回復しておらず立ち上がる事が出来なかった。

ヒュッ――――――

その瞬間、起き上がっていたら俺の頭があったであろう空間に、もう一匹のアインアイ バットが無音で特攻を仕掛け、見事に空を切っていた。モンスターとは思えない連携だ。

俺は、もう少し転がり2匹の姿を確認してから、体勢を立て直した。

俺の背筋は、氷のように冷たかった。もし3匹目が居たらと思うとゾッとしてくる。そ う言った所ではザックに感謝。しかし、注意する事が増えた。さっき倒れた原因は、おそ らく超音波で三半規管を狂わされたからだろう。が、単体の超音波でそこまで効果がある とは思えない。さっきの状況から考えて、2匹のちょうど真ん中に位置したときに2匹の 超音波が共鳴して効果を倍増させたのだろう。

ジリッ――――――

「はぁ・・・・・はぁ・・・・・はぁ・・・・・」

2匹に挟まれない様に絶えず動きながら対処法を考える――――――。

1・逃げる。

仕込み小手が重い、体力が限界。よって不可能。第一仕込み小手を装備したのはザック →攻撃、俺→防御の担当だと思ったからなのだ。じゃ無きゃ好き好んでこんな重い物装備 したりしない。

2・魔法、技で切り抜ける。

出来たらこんな苦労していない。却下。

3・防御

ジリヒン・・・・・。却下。

4・攻撃

一か八か・・・・・・。

・・・・・・・・・4かな?・・・気が進まないけど。

「・・・・おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

覚悟を決めて特攻した・・・・・・・が

ガッ――――――バタッ!

「うわっ!」

左腕を振り上げた瞬間、木の根っこに足を引っかけて転んでしまった。

――――――殺られる。と思ったのだが・・・・。

ギィィィィィィィィィィィィィィ――――――

と苦悶に悲鳴を上げる声が聞こえ慌てて顔を上げると、すぐ近くにバタバタと暴れまわ るアインアイバットが居た。理由はわからないがチャンスである事に変わりはない。咄嗟 に小手から刃を出しアインアイバットに突き刺した。

「光線≪Laser≫!!」

ギャァァァァァィィィィィィィィ――――――

前と後ろから同時にアインアイバットの断末魔の悲鳴が聞こえ、さらに真後ろに光が走 った。そして聞き覚えのある声・・・・・・。

「いやぁヴァイス、悪い悪い。おまえの事すっかり忘れてた。」

悪びれた様子の無いザックの発言に対する怒りと、ザックと一緒に現れた左腕を紅く染 めたリリアとザックに背負われたリーネの無事を確認した安堵を抱えて、おれは意識を闇 に落とした。

第18話「閑々休々一喜一憂」

2004/11/15 無重力

「まあ、あれだ。終わりがよければ全て好し。ってやつじゃないか?」

「全っ然、良くねぇよっ」

ザックの代わりに荷物一式全てを背負い込んだヴァイスは、額に汗し倶に天を戴かずと ばかりに怒鳴りかかった。釘バットとの乱闘で完全に精も魂も尽き果てたというに、殆ど 休む間も無く過酷な労働が強いられているという有様だ。これを怒らずとして何とする。

「あのなヴァイスっち...」

「っち!?」

これまた予想外の呼ばれ方に、なんとなく全身寒気が走るヴァイス。『っち』ってなん だよ。『っち』って。俺はどこぞの侍か。

「ま、細いこと気にするな。」

「気にするってのっ」

全くアレだ。いくら書き慣れてない男同士の会話だからって、流石に適当すぎる。

「大体あのまま蝙蝠野郎とお遊戯してたら、お嬢とリリアがピンチだっただろうが。」

― 盾は盾らしく、おとなしく時間稼ぎしてやがれ。と、冷たくザックは続ける。たし かにそれは正論だ。お転婆娘二人組とはいえ、後衛タイプのみを獣人にあたらせるのは酷 である。せめてこれが逆であれば話は別だったのだが。

しかしどこか釈然としないのも確かだった。

戦闘でおおむね消費した一行は、月明かりを頼りに一路獣道を進んでいた。とりあえず 倒したとはいえ、あの場所が安全であるという確証は無い。特に蝙蝠達があの程度で全部 とは到底思えなかった。

「しかし、あいつら。目的は何だったんだろうな。」

「あのな、目的も何も。どうせ取って喰おうとかそういうたぐいだろ。決まってる。」

蝙蝠とくれば吸血、というのが大体の相場だ。どうせ毒で弱らせたところで美味しく頂 こうという安易なあれだろう。今時期子どもでも知ってることだ。

しかし疑問なのが獣人だ。確か月明かりの下のライカンスロープは、銀製の刃でないと 傷つかないのでなかったか。

「ははは。俺の字<あざな>を忘れたか?『銀光のザックライアン』様だぞ。」

「そんなの、たった今、初めて聞いたぞ。」

「あはは〜。私も。」

二人の苦笑いを背に、リーネを背負ったザックは高笑いを上げながら山を下っていった。


休むのに適当な場所を見つけると、各々自分の荷を足元に下ろしていった。ザックはリ ーネ。ヴァイスは全員ぶんの荷物。そしてリリアは無荷だ。もちろん、“お気に入り”を 入れたポシェットだけはしっかり手放さなかったが。

岩陰にできたちょっとした洞穴。奥行きはあまり無いが、とりあえず夜露くらいはしの げるだろう。そのへんの枯れ草を敷けば、眠れないことは無い。

「んじゃお前さん、見張りよろしく〜。」

ザックは当然。とのごとくヴァイスの肩に手を伸ばす。

「おいおいおい、いくらなんでもそれは無いだろうが。俺、はっきし言ってヘトヘトの クターだぞ。今この瞬間にでも熟睡してやる自信があるからな。」

「駄目。却下。」

意外にも、それを止めたのは傍観者であるリリアだった。

「ヴァイス君〜。今夜責任を取って一晩中見張りするって言ってたの誰だったかな〜?」

「う....。」

数刻前の会話が頭によぎる。いくら自分の責任だからとはいえ、あんなことがあるなん て予想外もいいとこだった。分かっていれば、安易に請け負ったりしなかったのに。

「わかった?」

「御意....。」

舞い降りたる天使のごとき我らが姫も、今だけは角の生えた悪魔に見えた。急にずっし りと疲れが圧し掛かってきたような気がする。果たして見張りが勤まるのか、自信の程は 全く無い。


「どっこいせっと。」

「ザックちゃん、おじさん〜」

適当に一人ぶん寝床を見繕ってやると、リーネをその上に寝かしてやる。尤も、枯れ草 を束ねただけの粗末な代物なので、寝心地のほうは保証できないけれども。寝違えるとい けないので、枕に相当するものとして衣服を詰めたリュックサックを置いてやった。

「こうもおとなしいと、少しは可愛くも見えるんだがなー。」

日頃の恨みとばかりに、寝こけているリーネの頬っぺをつんつんと突き刺してやる。弾 力のある瑞々しい肌で、なかなかに突付きがいのある顔である。むう。思わずさらに突っ つきたくなる魔性の頬だ。

「むにゅー」

負けじとばかりに、横から見ていたリリアが乱入した。横から左右に引っ張るとはなか なかの大技だ。口元がむにーと広がって、なんとも間抜けな顔である。いつものきりりと した顔がまるで台無しだ。もし起きていたら、即座にがぶりと噛み付かれかねない。

「うがー」

と吼えるリーネの叫び声を期待したのだが、今夜ばかりは不思議と反応が無かった。

「なあ、なんかいくらなんでも静か過ぎないか?」

傍らのリリアに尋ねてみる。規則正しく息をしているリーネだったが、ただの衝撃にし ては眠りが深いような気がした。あれから一時間近くは経っていたし、だいぶ揺らしたり つついたりして外部からの刺激も加えられているはずだった。熟睡している、というのな らば簡単にオチが付くのだが、ザックはなんだか胸騒ぎがしてならなかった。

「んー」

薬草師たるリリアが適当に身辺を探ってみる。一応肩書きだけは帝国第一大学の薬草学 を専攻していただけはあり、それなりの医学の心得は期待できる。とりあえず打ったらし い右肩やら左手の傷やらを一通り見てみたが、特に異変は見つからなかった。

「あ、そうだ。ちょっと試してみよ。」

すこし思い当たる節があったのか、リリアはお得意のポシェットをごそごそとやりだし た。それだけでは事足らぬのか、傍らに投げ捨てられた自分のリュックサックの方も探っ てみる。

取り出したるは二枚の細い紙。一枚は青色でもう一枚は赤い色をしていた。

「あったあった。じゃーん。マジトリ紙〜♪」

猫型ロボットよろしくそれらを高らかに掲げると、自分の舌を出してその上に軽く置い た。唾液によって紙が染みていくが、特に変わった様子は無い。ふむん。と一息つくと次 は別の紙をリーネの口に含ませる。

マジトリ紙は魔力試験紙とも呼ばれる簡易的な魔力量検出に使われる紙で、唾液にあて てその人の魔力循環率を調べることが出来る。充分であれば青色、不足していれば赤色の 反応が出る。ちなみに凡人には何の変化も出ない。

結果は赤い紙がそのまま赤、青い紙が紅く変色していた。

「まっずいなー。」

リリアは思わず頭を抱えていた。状況は思っていたほど楽観的なものではなかったらし い。半分は自分の責任であるだけに、どうしたものかと思い悩む。

「どうだったんだ?」

「リーネっち、魔力の循環がほとんど停止しているみたい。」

リーネほどの力を持った魔術師となると、魔力の体内循環は必要不可欠な処理だった。 ただ溜めておくと凝り固まった魔力が生命活動を脅かす可能性があるからだ。大抵の場合 は身に着けている触媒を通して定期的に循環させ、透析することによって純度の高い魔力 のみを身体に戻していく。

もしその循環が止まるなら、新たな魔力の供給が止まるだけでなく、汚れた魔力が体内 に残ってしまう結果となる。すぐに命の危険が訪れるわけではないが、何らかの合併症が 伴う危険性がある、という話を聞いたことがある。

「ここ、ひびが入ってるでしょ。」

そう言って、リーネの胸元を指差した。いつもリーネが身に着けているダークエメラル ドの飾りだった。爆発に巻き込まれたせいか、表面に僅かに亀裂が走っている。

記憶が確かであれば、この宝石はリーネの触媒の中でもディフォルト・ゲートウェイと して機能していたはずだ。詳しくは知らないが、その大元が断たれることによって機能全 体に支障が出ているのかもしれない。

「もしかしたら、このまま目を覚まさないかも。」

神妙な顔をするリリアの姿を見て、ザックは恐ろしい想像をしてすぐに取り消した。い や、きっとあのじゃじゃ馬リーネのことだから明日の朝になればけろっとした顔で起きて いるに違いない。

たぶん、きっとそうだ。

第19話「ザックの疑惑1」

by古津

リーネの容態は時間が経つにつれて快方に向かった。

その日はヴァイスが寝ずの番に付き、リリアがリーネの看病に起きていた。

そうなれば、男一代ザック=ライアン一人寝るわけにもいかず、全員次の日の朝には仲 良く目の下に隈を作る結果になっていた。

そんな中、一日寝ていたリーネは一人元気だった。

本人曰く、炎系の魔術である光線は風系にも関わるらしく、触媒となる宝石の純度が酷 かった為に精神に対して過度の負荷がかかり、生命活動を保つ為に身体の休養をとらざる 得なかったそうな。

ダークエメラルドは多少の事があってもその役割を果たさなくなる事はないとも言って いたがあのマジトリ紙は確かに循環不全を示していた。

しかし、本人は「私がそんな魔術師としての初歩が滞るわけがないじゃない!」と取り 合おうともしない。

とりあえず、いつものような小煩いリーネが戻ってきて、よかったと思う男ザックなの であった。

「そんなわけないだろ!」

ザックはザックの声真似(似てない)をするヴァイスに向かって殴りかかる。

避けようとしてもヴァイス如き、一般人が軍人になれたザックの攻撃を避けれるわけも なく、無様に殴り飛ばされる。

されどすぐに起き上がり、再び同じ事をしようとする。

「あははははははは」

リリアは笑いっぱなし、リーネは顔を背けながら声を殺して笑っている。

森を歩く一行。

そんな中、リーネがザックに言った。

「何?あんた、私がいないと寂しいの?」

声は笑っている上に、顔がにやけている。

ザックが「そんな訳あるか」と返事をする前にリーネが言葉を続ける。

「あんた、ロ○コンね」

ズズーンという効果音が鳴ったかのように周囲の時間が止まる。

そして、フルフルと震えだすザックとリーネを見て固まったままリリアとヴァイス。

リリアは「何でリーネっち、そんな言葉知ってるの」という顔でリーネを見たまま固ま り、ヴァイスはなぜか身を固めている。

何から身を守っているのだろうとリーネは思った。

それも束の間、背筋から寒気がした。

「え…?」

振り向いたそこには、怒りの顔のザックがいた。

その日、ヴァイスの叫び声と共にザックの叫びが森に木霊したらしい。

第20話「迷い旅」

2004/12/05 トラねこ

「はぁ…。何時になったら森から抜け出せるかな?」

溜息をしつつリリアが言った。その言葉にヴァイスが過敏に反応する。森に入って一日 費やしたが、一向に抜け出せる気配はない。思えば私達が旅を始めてから予定とした町へ 辿り着く事があっただろうか?―いや、ない。思えば、先陣を切って歩いた馬鹿者は羅針 盤を一度でも見たかどうかも怪しい。ジロリと後ろを見る…ヴァイスは全員分の荷物を背 負い縮こまっていた。

「とりあえず、安全な処で休息をしないと拙いな…」

「どうして森を歩いているのかしらね…。確か、目的地は港町なのに…」

ヴァイスに視線が集まる。変わらぬ景色の中歩き続け、魔物と戦闘――苦戦し、気絶し た仲間を一晩中見守り、また森を歩き続ける。この原因はヴァイスが道を迷った事にある 。いつもなら寛大な心で許すのだが…如何せん、五本の指に入る程に好きな睡眠の時間を 奪われたのである。荷物持ちをやらせてもこの何とも言えぬ不快感は拭えない。だが――

「…とにかく、現状の打開策を考えましょう?」

一番大事な事は過去よりも今であり、このまま闇雲に歩いたらもう一度野宿を取らざる を得ない。今、襲撃を受けるにはあまりに危険であり、何としても回避したい。

あれから羅針盤を使って見たのだが、どうやらここらは磁場が狂ってるらしい。また、 覆われた木々が原因で太陽の位置、時刻がわからない――

ズキッ――

肩に痛みが走る。あぁ、痛いなぁ…

―――――

「まず、リーネっち。今日は魔術を使っちゃ駄目」

「もう大丈夫よ。それより、後ろのお馬鹿さんみたいにお荷物になる方が嫌よ」

「だ〜め。魔力の循環の不調は思ったよりも危険な出来事なのよ。安静にしなきゃ」

「…は〜い」

リリアの言葉に渋々頷くリーネ。あの天邪鬼もリリアの前では大人しい。ところで後ろ のお馬鹿さんとは俺の事だろうか?

「この事から野宿は危険で〜す。よって日が暮れない内に森を出ましょ〜」

スッ―と手を挙げるザック。

「その方法は?」

「…こほん。まず私達はダカールから北西に位置する港町リーンブルグへ向かっています」

「しかし、今は森。となると大体、ここら辺にいると判断するのが妥当です」

地図を広げ、リーンブルグから少し左にずれた森を指す。

「つまり、西の方角へ歩けば日が暮れるまでには森を抜ける事ができる筈」

「ん〜。さっきリリアと一緒に羅針盤除いて見たけど狂ってなかったっけ?」

「そのとーり。だから別の方法で方角を知りたいと思います」

「そこで――」

ビッ。っと指をさされる。

「ヴァイスちゃん。あそこの木を切って」

「?まぁ、了解…」

荷物からロングソードを取り出し幹に斬撃を与える。当然一撃で木が倒れるワケもなく 、ミシミシと音を立てて木が倒れる過程20分かかった。

「…で、これで方角がわかるの?」

リーネが聞く。

「木には年輪っていう輪があって、お日様の関係で北に狭く、南に広くなってるの」

「それを元に方角を判断するってワケよ」

木の切り口の表面を平らにしてじっとみる。確かに輪が偏って………ない。

「まぁ、ご覧の通り、並の木じゃ木々が日の影になって判断できないんだけど」

切り口も見ずにリリアの説明は続く…故意犯?やっぱりまだ機嫌が直ってないのだろう か?

「さぁ、以上の事を踏まえて幹の太い木を探してきてね〜」

探した後、誰がその木を切るのだろう…。ザックと顔を見合わせる…。何も考えるなと 言わんばかりに首を静かに横に振った。

――30分後。

「ねぇ、幹の太い木見つけたわ」

リーネが集合をかける。どれ…とその場へ行ってみると――

その場は木が避けているかのような空間が出来ていて、その空間の真ん中に大樹と言え る立派な樹が聳え立っていた。何とも神秘的な雰囲気を醸しだしている。

「……これは切っては不味いのでは…」

「同感…」

「でも、これなら確実よ?」

確実云々よりも、これを切る人の身も考えてくれ…。頼むから。

「これだけ大きいとフレイムボムを多少使っても問題なさそうね」

とリリア。そして、ザックと俺に笑顔を向ける。…ヤレと言ってる気がする。その笑顔 がザックを前へ動かす。…ザックよ…絶対、リリアに良い様に使われてるぞ…気付け…。

とはいえ、女帝二人に逆らえる筈はなくザックの跡を追う。そこへ――

ヒュッ――

ザックの足元に矢が刺さる。即座に構える。

「御神木から離れろっ!!」

遠くから声。見ると長い真紅の髪に褐色の肌をした女が弓を構えていた。