Party Live ::Act 6-10

第6話「先の行方」

2004/09/23(木) トラねこ

「サンドウォームを倒そうぜっ!」

勢いよく宿屋のドアを開けたその音でリーネが飛び起きた。

…驚いた目でこちらを見ている。

あぁ、唐突で話がわからなかったか…と思い、言葉を付け加える。

「なんでも巡回していた兵が襲われて防衛戦に入るらしい」

「が、人手が足りなく傭兵で補充するそうだ」

「こりゃぁ〜……って、ん?」

肩をわなわなと震わせているリーネ。

そして――

「……火生成<CreateFire>」

「へ?」

ボッという音がしたかと思うと頭が暖かくなった。

「……――――!!」

「熱ちぃ――――――――――!!!!」

チリチリと髪の毛が焦げる音。独特ないやな匂いが鼻につく。

「み、水、水、みずぅ〜〜〜〜!!!!」

辺りを見て、横にあった花瓶を見つけ即座に頭から被る。

ジュッと音を立て、ようやく火が消えた。

「はぁ、はぁ、はぁ、…はぁ〜〜〜〜……」

「って、何しやがるっ!!」

怒りを込めて問いただすと――

「勝手に寝室に入ってくるなっ!!」

と、怒鳴られた。

う…それを言われると確かにこちらが悪い。だが…

「だからって…」

「とにかく出てけっ!!」

今度は枕を投げられる。その後、詠唱らしき声が――…って、とにかく部屋を出よう。

慌ててドアを閉める。

「…ったく、だから待てと言ったんだ」

「……」

ザックに言われても反論できない。全くのその通りで…

そしてしばらく無言のままで居ると、リーネとリリアが出て来た。

「まったく…女性の寝室に無断で入るなんて…何考えてるのよ」

「わ、悪かったよ」

なんて会話をしていると――

「ん〜……。なんの話しぃ?」

と、目を擦りながらリリアが聞いてきた。さすがというかなんというか…

取りあえず改めて、これからの話しをした。

「――剣士としてこの出来事は見過ごせないな」

「まぁ、ザックはそうだろうな。――で、リリアは?」

「賛成〜。不安の種は摘んだ方が良いし――それに…」

「…それに、気になるわ。樹木の根と周囲の虫を主食とするサンドウォームが人を襲うなんて…」

ん〜…とリリアは考え込んでしまった。

リーネというと、不満そうだったが渋々賛成した。

「―――あぁ、雇われ兵ね……。配置場所が決まり次第連絡するから適当に座ってて」

傭兵を申し出に基地に行き、言われたのはその一言だった。

本部からの増援まで傭兵を使うのは良いが、傭兵なんて町に少数しかいない。

あまりに不甲斐ない作戦にリリアが談議に向かった。

兵士は当初相手にしなかったが、ザックが加わり、二人とも名を名乗った事で雰囲気が変り、 直接兵士長に会える事になったようだ。

国一と謳われる学士と剣士か…。なんか、世の中不平等な気がする…。

「ん〜、取りあえずこれを明日の朝までに用意しておいてくださいな」

さらさらと紙に筆を走らせる。

「これを?何に使うんで?」

「まぁ、夜に詳しく説明するから…よろしくね兵士長さん」

「わかりました」

話しを半ば無理に終わらせたかと思うとリリアがこっちに戻ってきた。

「ヴァイスちゃん、ちょっと鍛冶屋までついて来てくれる?」

「なっ…俺も行くよ」

「でもザックは兵士と打ち合わせする事があるじゃない」

「ぐ…」

「あ、リーネっちも話しに参加して。魔術を使う時の合図辺り決めて置かないと」

「わかったわ」

納得のいかないらしく、ザックがこちらを睨む。や、怖いから…。

「それじゃぁ、行きましょう」

「お、おう」

とてとてと先を歩くリリア。すぐ鍛冶屋に着いた。

リリアは念入りにボウガンを選出し、その改良点を説明しながら完成図を書いていく。

「明日の朝までにお願い」

「朝?…そりゃ〜ちょっと難しいな。譲ちゃん」

「そこをなんとか。サンドウォームの退治に必要なのよ」

「…わかった。明日の朝までに仕上げよう」

「ありがとね。おじさん」

あとは…と辺りを見回すリリア。

「うわ〜この仕込み小手。渋い〜」

「うん、これがいいわ。ヴァイスちゃん。サイズ合う?」

「どうかな…」

小手をはめて見る。サイズは合うが仕込みの分重い。

「剣を振るうには少し重いよ。この小手」

「サイズは合うのね?」

「まぁ、合うけどさ…」

「じゃぁ、決まり。おじさん、この小手に…あそこの盾を溶接してくれる?」

「いっ…」

リリアが指したのは厚みのある盾。

「おいおい、溶接は可能だけどよ。それだと並の腕じゃ剣を振るえないぞ?」

「その点は大丈夫だから安心して。時間は大丈夫?」

「まぁ、溶接なら弟子に任せても大丈夫だろ。お譲ちゃんのは精密だから任せられんがな」

「よろしくね」

「あいよ。明日の朝までな」

と、唖然としてる俺を他所に話しはついてしまった。

「…鍛冶屋の親父が言ってた通り、俺はあんなの付けて剣なんて振るえないぞ?」

思ったことを口にする。

「大丈夫よ。剣を振るう必要はないもの」

「はっ?」

「作戦の要になるのはリーネっちになると思うわ。でも詠唱中は無防備だから護衛が必要になるのよ」

「…それを俺に?」

「私も応戦するけど…頼りにしてるわよ」

と、肩を叩かれる。

実戦が鮮明になる。

――なんとも、命懸けの戦いになりそうだ。

第7話「激戦区」

2004/9/26(日) 無重力

長剣を袈裟懸けに叩き降ろすと、返す刃で真一文字に敵を薙ぐ。キン、と硬い金属音が 響いて、一足遅れてずしりと右手に重みが奔った。まるで怯む気配が無い。確かに重い刃 が相手の体勢僅かばかりに崩したようだが、ダメージの程はほとんど皆無といって相違無 いだろう。

「なんだよ・・こいつらはっ」

少し焦りの色を見せて、ザックは前を向いたまま後ろの仲間に怒鳴りかけた。そうもし ているうちに、体勢を立て直した敵が前足で強力な叩き込みを掛けてくる。真直に降り降 ろされる重い一撃。寸手のところで剣を構えなおすと、横薙ぎに大きく払い避けた。

続けざまに繰り出される第二撃、三撃をやり過ごすと、ザックは再び正面に向かって長 剣を振り翳す。一瞬陽光を受けて煌きを見せた鋼鉄の剣身が、弧を描いて敵の身体に喰ら いついた。甲高い音をたてて銀色の火花が散る。

「まるで攻撃が利かないぞっ」

繰り出したはずの必殺の一撃がそのまま返されたとなると、流石のザックもたじろぎ後 ずさる。このままでは分が悪いのは誰の目に見ても明らかだった。疲労感ばかり溜まって いく一方で、対する相手は微塵にも衰える気配が無いからだ。

戦闘の技術が拙いのが幸いしてまだ直接的なダメージは受けていなかったが、じり貧の 勝負であることには違いない。なんにしろ、たとえ目の前の敵を倒したところで周囲には 何対もの奴らの仲間が控えているのだから。

「〜♪」

ヒュ、と空を切る鋭い音がして、次の瞬間何かが弾けた。一瞬衝撃で思わず目を閉じる ザックだが、直ぐに立てなおして前方を見つめ直す。小さな爆発があったらしく、その周 囲に居た敵たちが怯んでいた。

― 炸裂弾丸。後ろを確認していないので解らないが、おそらくリリアの 放ったものに違いない。爆発性物質入りのカプセルをお得意の連射式ボウガンから射出す る、彼女の即戦力型の武器の一つだ。

助かった、と思うのもつかの間。次々と撃ち出される強烈な爆撃にこっちまで被爆しそ うな勢い。

「あは〜」

目の前の敵どもに悉く着弾する様は爽快の一言で、まるで花火大会でもしているかのよ うな錯覚に陥った。爆発の衝撃を伴うお手製の弾丸は徹甲弾としての効果を発揮するらし く、剣では無傷の彼らにも着実にダメージを与えている。いつもはぼけっとしている姫様 だが、こういうときだけは生き生きとしている気がするのだが。

それでもしつこい敵ども ―人間大の蟻型モンスター― は一向に数を減らす事なく襲い 掛かってきていた。実際のところリリアの弾丸で蹴散らしたのはごく数体に過ぎず、その 後ろに控える彼らの仲間達の数と言ったら 10 や 20 は下らないと見える。

好い加減剣一本でお相手願うのは限界がきていた。いくらザックの剣術が優れていよう とも多勢に無勢、全くもってキリが無い。それこそ、対軍兵器の一つや二つでも持ってき てもらわないと割に合わない。ドカンと一発お見舞いしてやっと五分五分だろうという雰 囲気だ。

そもそも何でこんな自体になったのやら。ザックは痺れる腕を無理矢理に酷使しながら 思い起こす。そう、話は長くなる。あれはついさっきのことだった。

「なるほどなるほど、つまりはその擬似樹液でミミズさんをおびき寄せるわけね。」

サンドウォーム撃退作戦の意外な戦略として編み出されたのが、我らが姫ことリリア考 案の『黒砂糖 + 酒 = 樹液っぽい作戦』だった。もとから穏やかで樹液を主食とするミミ ズ公なら、簡単に誘き寄せられるにちがいない。なんたって頭はのっぺらぼーのツルツル なんだから。

「で、こいつが噂のサンドウォームっていうやつなの?」

罠に引っ掛かったのは他でも無い、砂漠に生息するシロアリの集団だった。しかも人間 大ででかいやつ。きゃつらアルコールに目が無いのか単に砂糖好きか、狂ったように襲い 掛かってくるのだ。

「あー、私パスパス。こんな虫けらに興味無いから。」

脱落したのが約一名。喰い物の恨みとばかりに立ちはだかったリリアとそれを護衛する ザック。そして未だ兵装が完了していないのが残りの一名だった。

そして今に至る。

「逃げるなぱかものっ。魔法無しでどうやってこの大群相手にするんだっ。貴様ももた もたしてないで戦線に出やがれっ。壁は壁らしくしてろっ。」

ちょっぴりキレ気味なザックちゃんでしたとさ。

第8話「サンドウォーム」

古津

人間大の蟻「デザートアント」を誘ってしまった今回の作戦から30分…。

溜まりに溜まった蟻の死骸は数え切れないほどになっていた。

ザックの他にも傭兵はいる。

ただ、ザック程に輝いている傭兵がいなかった。

リリアも連射式ボウガンで炸裂弾を撃つ撃つ撃つ。

しかし、ここまで続くと弾も切れる。

「…」

リリアが無言になった。

未だにカタールの装着が終わらないヴァイスが無言になったリリアに気付いた。

「なっ!おい!」

ヴァイスの叫びはリリアに届かない。

リリアは突然ボウガンを捨てると、懐からいつの間にか仕込んでいたフレイムボムを取り出した。

そしておもむろにそれを…………。

投げた。

「ザック!避けろ!」

ヴァイスがザックに叫ぶ。

ザックが振り向いた時、大きな火柱が砂漠に現われた。

「な、なんだ!」

リリアが次々とフレイムボムを投げる。

それから逃げるように他の傭兵とザックが下がる。

「……………」

リリアが何かをぶつぶつ言っている。

そうなのだ。

昔からリリアは自分の考え通りに行かずに時間が経つとキレるのだ。

ヴァイスは昔を思い出しながら恐々としていた。

フレイムボムの火柱が10本になろうとした所だろうか、リリアが怪しげな薬品を1本の火柱に投げ

込んだ。

薬品が火柱に飲み込まれた時。

激しい砂つぶてが空を舞い、樹液っぽいものと共に群がっていた蟻と人を吹き飛ばした。

反射的に伏せたザックや他の傭兵達は無事だったが見事にカタールの装着を終えたヴァイスが吹き飛

ばされ、砂に埋まっていた。

リリアが大爆発を起こすほんの少し前、ダカールに一人の男がやってきた。

「ん?なんだあの火柱は?」

男は近くにいた駐屯兵に聞いていた。

「あ、あなた様は……お、お迎えの準備もせず申し訳…」

兵は男の姿を確認し、敬礼を行った。

男は兵の言葉を遮り続けた。

「いや、挨拶はいい。あの火柱はなんだ?」

兵が男の問いに恐縮しながら答えた。

「はっ!あれは多分、サンドウォームの討伐の為に雇い入れた傭兵隊が何かしているのかと…」

「傭兵か…」

男が言葉を紡ごうとした時、大爆発が起き、砂嵐が街を覆った。

爆発後の戦場に蟻の死骸はなく、あったのは大きなクレーターだけだった。

「……………………………」

リリアは未だにだんまりだ。

砂に埋もれたままヴァイスは恐々としていた。

ザックが起き上がり、一直線にリリアの元に走り寄る。

「リリアさん。お怪我は?」

見るからに砂まみれのリリアの砂を落としながらザックが尋ねる。

「ん〜、大丈夫」

どうやら普段のリリアに戻ったようだ。

ザックがリリアの砂を落とし、ヴァイスが他の傭兵達に砂の中から助け出されていた所にリーネが帰っ

てきた。

「さっきの爆発は何!?」

リーネの問いに答える者は誰もいなかった。

なぜなら…クレーターから地響きを立て、目的のサンドウォームが姿を現したのである。

「せ、…せ、戦闘準備!」

傭兵の指揮を執っている兵士が叫ぶ。

その声にさすがに傭兵、埋もれているヴァイスの救助をそっちのけにし隊列を整える。

ここからヴァイスは自力での脱出らしい。

ザックはリリアを守るように剣を構えているし、リリアはボウガンを探してあっちキョロキョロこっ

ちキョロキョロ。

ボウガンはさっきの爆発で砕けて散ったのには気が付いてないらしい。

リーネも問いに答えられるのを待たずに、爆炎<バーニング>の詠唱を始める。

触媒であるファイアルビーが独りでに腰にぶら下げている宝石の束から宙に浮き始めた。

傭兵達の隊列がサンドウォームに突撃を開始した。

詠唱中のリーネの時間を稼ぐ為だ。

しかし突撃するものの砂を撒き散らされ、突撃が止まる。

回り込んで攻撃するものの異常な硬度を誇るサンドウォームの皮を斬る事ができない。

突撃開始から30秒。

リーネの周りの大気の熱が収束する。

「行くわよ!」

言うと同時にファイアルビーから巨大な火の玉が射出された。

火の玉はサンドウォームの胴体目掛けて真っ直ぐに飛ぶ。

そして直撃。

サンドウォームが炎に包まれ、突撃した傭兵隊が後退する。

これで終わりかと思われた。

が、しかし…。

魔法の火が消えたそこにはさらに凶暴さが増したサンドウォームがいた。

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」

凶暴化したサンドウォームが傭兵を凪ぐ。

直撃を受けた傭兵の体か異常な程に曲がり、傭兵が生き絶える。

「そ、そんな…」

リーネが驚きの声をあげた。

少なくとも自身の魔力と触媒の純度には自信があった。

それが致命傷を与えられなかった事はショックだった。

暴れるサンドウォームはザックや他の傭兵達が頑張って抑えている。

リリアも乾燥剤だろうか?投げつけて応戦している。

ヴァイスは…言及するべきではない。

ショックも束の間、また傭兵が死んだ。

「ぐおっ」

「ショックを受けてる場合じゃないわね…」

リーネは再び詠唱を始めた。

「おーおー、やってるねぇ」

ダカールに現われた男は凶暴化したサンドウォームを見ながら呟いた。

男は戦場後方にいた指揮官の後ろに立ち、戦場を見ていた。

呟きに気付いた、指揮官が後ろを向いた。

「あ、あなた様は……」

「おおっと、それ以上はここでいったら駄目だよぉ〜。一応お忍びなんだからね」

男は指揮官の言葉を遮った。

「それより、指揮しないとねぇ?」

「は、はっ!」

指揮官は大きく敬礼をし、戦場に戻った。

「あんなに大きく敬礼したら…やれやれ」

男はため息を付き、その場に座り込んだ。

「それにしてもさっきの魔法は素質はあるが荒削りの魔術師なのかな?練りが甘いなぁ…」

魔法を撃った当の本人には男の声は聞こえるわけもない。

男は激化の一途を辿る戦場を眺めていた。

第9話「鳴動」

2004/10/09(土) トラねこ

怪物が蠢く…鳴り止まぬ地響き。恐怖から発する人の悲鳴。

怪物と人が奏でる阿鼻叫喚。

砂漠の怪物、サンドウォームの激動と奇声は止む事を知らない…

一人、また一人と薙ぎ倒されていく。

「指揮官!何をしているっ!兵を誘導しろっ!」

若き剣士が叫ぶ。

その声に指揮官は慌てて指揮をする。

「砲撃隊!!この怪物を街に近づけるなっ!!撃て――!!!!」

大砲の音が鳴り響く。次々に直撃する砲弾。それでも怪物は絶えず蠢く。

「――く…この化物が――っ!!!!」

ザックが飛躍し、渾身の突きを放つ。しかしそれは、強靭な皮を貫く事はなかった。

それでも斬撃は止まない。怪物の体当たりをいなし、足を使って攻防を繰り広げる。

自分が斬撃を繰り返す事でサンドウォームの注意を惹き付け、町への侵入を防ぐ。

――これは、若き剣士の紛れもない才能こそが成せる技だ。

現に前線を張っているのはザックと逃げ遅れた傭兵だけであった。

「離れてっ!!死ぬわよっ!!」

再びルビーを触媒に爆炎が渦を巻いて巨大な弾ができる。

その声に反応し、即座に退避する。対応が遅れた傭兵を残して…

巨大な炎弾が放たれる。弾は数人を巻き込みサンドウォームの身を焦す。

そして、初弾と同じように奇声を上げ、痛みでのた打ち回る。

――おかしい。

リリアは爆炎を補助する乾燥剤を放ちつつ思考を張り巡らせていた。

知識にあるサンドウォームとは比べ、相違点が多すぎる。

砂漠に生息する生物は水分の保持が最重要であるため、日光から水分を守る耐熱性に優れている。

だから、炎に強い。でも…爆撃に耐え、剣を通さない皮膚は明らかに異常だ。

それに凶暴過ぎる。これは従来のサンドウォームの根底を覆す要素だ。

――と、慌てて思考を止める。今はサンドウォームを撃破する突破口を見つけなければ――

状況は変らず、ザックは前線で戦っている。

サンドウォームの単調な動きをザックは見事にかわし続ける。

しかし、こちらの刃は通らない。そんな戦況のため――

『このままでは長期戦だ。爆炎は確かに効果はあるが、致命傷にならない』

『長期戦ではこちらが持たない。不利なのは明白だ。どうしたものか…』

――と、雑念が入ってしまった。油断…それは死を招く原因だと理解していた筈なのに…

サンドウォームが口を開く。

――まずい!不意な動作にザックの体が硬直する。

敵は口から粘膜性のある毒液を放ってきた。

それに対し、ザックは渾身の力で大地を蹴り、回避する――

回避…できたが体勢は崩れた。

その隙にサンドウォームは町へ向かう。そう、二度も痛打を負わされた魔術師に向かって…

――サンドウォームがやって来る。もの凄い地響きを立てながら…

中継にいる傭兵・兵士が吹っ飛ばされていく。砲撃を食らっても止まらない。

向かってくる怪物に対し、ヴァイスは身構える。

『私も応戦するけど…頼りにしてるわよ』

なんて言われた事が脳裏によぎるが…こんな化物をどうしろと…

正直、盾にもならないで散ると思うのですが?

そんなこちらの思考お構いなしでサンドウォームは向かってくる。

どうしよう。

…うん、逃げよう。無駄に命を散らす必要なんてない筈だ。

…うん、ないない。

そう言い聞かせながら、猛奪取で逃げる。

そんな中、後ろで姫君が罵声を浴びせてくれる。

「こらーーー!逃げるなーーーー!!」

…もう、泣きたかった。

そんな中、姫君ことリリアがフレイムボムを投げてきた。さっき俺がいた場所に。

ゴウッ!と上がった火柱に驚いたのか奇声をあげながら進行方向を変えた。俺が逃げている方向に。

口が開いたまま突進してくるサンドウォーム。避けられない…そう思い、ヤケクソ気味に構えた…

あー…もう、こんちくしょー。

――より強い地響きが起こり、サンドウォームがヴァイスに突撃した。

予想してなかったのかリリアは、あははーとか言いながら頭を掻いている。

「…あれ、死んだんじゃない?」

「ヴァイスちゃんの仇よ〜リーネっち」

そんな緊張感の欠片もない返答で集中力が切れた。詠唱中だったのに…

再びこちらに向かってこようとするサンドウォームと同時に――

「死ぬーーーーーーー!!」

と、必死な叫びが聞こえた。

見ればサンドウォームの口の中に引っ掛かってた。小手に仕込んである刃を突き刺して。

…しぶといなぁ。と、眺めていたら――

「リーネっち!刺さってる!チャンスよ!」

と、リリアが言ってきた。

刺さっている?

――あ。そうか、刺さっている。

「詠唱に集中するわ…リリア、サポートお願い」

うまくいけば一撃で確実に仕留められる。

この好機を逃す手はない。

――やっと追いついたザックが再びサンドウォームに挑む。

油断から形勢不利になったため、戦闘に集中しようとするが…どうしても集中できない。

ダメだと思いつつも問いかけずにはいられない…

「…おまえ、何やってんの?」

敵の口内にいるヴァイスに問いかけた。

「……好きでいるわけじゃない。助けろよ…」

「何故俺が…と、言いたい所だが…不本意だが助けてやるよ」

その行動を制止する声。

「ヴァイスちゃんはそこに居て!」

「…だとよ。悪いな」

「……………」

再びフットワークを利用して攻防を繰り広げる。

我が姫君はフレイムボムを、兵士は砲撃による援護で敵の動きを封じている。

衝撃の度にヴァイスが刺している刃が肉を引き裂き、サンドウォームは重低音の奇声を発する。

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」

意外な活躍を見せている役立たずは――…泣いていた。気の毒に。

後ろでは爆炎が渦巻いて巨大な球ができている。

ん?その球が形状を変えていく……

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」

と、集中しなければ…敵の正面にいればまた、毒液を放ってくるだろう…

早速サンドウォームが毒液を放ってきた。今度は最小限の動きで避け、再び斬りつける。

「痛いっ!!皮膚が痛いっ!!」

ヴァイスが叫ぶ。口内にいたためモロにかかったようだ。

「行くわよ!!そのデカ蚯蚓の口を正面に向けて!!」

リーネが詠唱を終えたようだ。巨大な球だったものは杭のように細長い形状をしていた。

それを見て意図がわかり、剣に一層力を込めた。

火柱や砲撃を利用して斬撃でベクトルを変え、正面を向けさせる。

最後の一撃を加え、退避した時――

「ででで…って、ちょっと待て!!俺は?」

と誰かの叫び声が。忘れてた。

「大丈夫。骨は拾ってあげるから」

「誰が死後の心配なんてするかーーー!!」

「…炎槍<BurningRance>」

無情にも炎の槍は放たれ、サンドウォームの内部に入り…

凄まじい爆音と共に敵の胴体を両断した。

衝撃で吹っ飛ばされたヴァイスは…毒の粘液が爆炎から守った様で生きていた。

軽い火傷と打ち身…んで、気絶中…。不死身か貴様は…

一方――

「ははは…味方ごと吹き飛ばすとは…面白いな」

「……興味がある魔術師を見つけたが…まぁ、機会があれば再び会えるだろう」

一部始終を傍観していた謎の男は、言葉だけを残し去っていった。

――負傷者の手当て、死者の弔い。

事後処理をしていた中、仲間の手当てもしないでリリアは怪物の死骸を調査していた。

皮膚、肉などを切り取り、様々な薬品に漬け、反応を調べている。

そして――

「原因がわかったわ」

その声に辺りが静まりかえった。

兵団に宝石を請求してたリーネもこっちを向く。

「原因は皮膚の一部が硬化したために、欠落した細胞が毒となり、その影響で凶暴化した。」

「皮膚が硬化した原因としては…環境による突然変異。もしくは――」

「――錬金術」

辺りは静まりかえったままだった。

第10話「一匹狼」

2004/10/13(水)無重力

「え、あ、わ、私・・・!?」

気が付くと、リーネはなぜか周囲の視線が自分に向かっていることに気付いた。いずれ も猜疑にあふれた冷たい視線。

「えっと...。あはは〜♪」

ジト目の嵐に耐え切れなくなり、とりあえず笑って誤魔化してみる。泣く子も笑う、硬 派も萌え萌え、必殺・100万Vの微笑みだ。伺うように周囲を見回してみると、それは逆効 果だったのか一層視線による圧力が高まったような気がした。

― リリアっちめ〜。あんたも錬金術師の端くれだろーに。

凝視の嵐に混じる、一対の瞳を睨み返してみせる。こっちの視線に気付いたのか、彼女 は本当に楽しそうに笑ってみせた。

あれは絶対に遊んでいる顔だ。あんにゃろ、とりあえず楽しそうだからこの輪に加わっ ているに違いない。

「確か...この小娘、錬金術師とかって言ってたよな。」

傭兵のだれかが確かめるようにそう煽った。― そうそう。― 俺も聞いたぞ。ちらほら と同意の声が投げかけられる。何だか知らないが、錬金術師という言葉に反応してリーネ を疑っていることは間違いないらしい。

これだけは声高にして言えることだが、わたしゃ全くもって無関係だ。冤罪だ。なにが 悲しうてミミズ公なんかにイタズラをせにゃならんのだ。そんなことをして何の得になる。 うんにゃ、一銭たりとも儲からない。

「ふむん。つまりは、ミミズを操っていたのはお嬢の仕業と。」

輪の中央付近に位置していたザックもまた、うんうんと頷くように納得していた。リー ネは反射的に、そして瞬間的に右手が手にしたロッドを強く握り締める。確かな感触。紡 ぎだされる詞<ことば>。

「あんたたち、いい加減にしろ〜〜」

月の中心からカッと強い閃光が迸ったかと思うと、文字通り星型をした小さな光の集合 が閃光の中から生成される。ぐるぐるとリーネの中心を回転していたそれらは、空高く掲 げられた月の杖を合図に、一気に周囲に向かって加速した。煌く流星。押し寄せる光の奔 流。

― うわ〜。― 攻撃してきたぞ〜。静かだった群集が一瞬だけざわついて、再び収ま った。ただの脅し。そう、当たっても静電気程度の衝撃しかない手加減された散撃だけれ ども、いかんせんセンセーショナル過ぎたのか殺気すら抱いた視線が一層強くなる。

佩いていた剣を鞘から抜刀する者。長槍を真直から斜めに構える者。静かに詠唱し、自 らに結界を纏わり付かせる者。そしてじりじりと狭められていく追及者たちの輪。

― あちゃ〜。こりゃマズったかな。

どうやら連中、冗談も分からないアタマの硬い奴ららしい。もちろん、面白半分この輪 に加わっているぱか者は除くけれども。再び視線を投げかけてやると、流石にザックたち も事の重大さを読み始めたのか、この状況を危惧し始めたようにも見える。

『夢星屑<BurningStarDust>』。気付かれないように小声で詠唱を終えると、比較的大 規模な広範囲魔法をいつでも発動できるようにしておく。今度は脅しではない。それなり の殺傷力は、持つ魔法だ。死にこそしなくても、病院送りくらいは覚悟してもらおう。も ちろん保険のためだ。決してこいつらにムカついて、丸ごとふっ飛ばしたくなったわけじ ゃない。

― さてと、どうしたもんかな。

じりじりと輪は確実に縮まっている。態勢は整っている。そしてそれは向こうも同じだ ろう。尤も、雑魚どもが集まっただけの烏合の衆に、統率という二文字が存在するとは思 えないが。

最初に仕掛けてきた奴を殺す。なんて格好良い事を言ってみるべきか迷う。よく考えれ ば、これは気高き狼に群がる猟犬どものような構図だ。何だかよく分からないが、それな りに格好が付く状況ではある。

女王様とその下僕たち・・と考えかけてそれは止めた。いくらなんでも夢見がちだ。そ して私にそんな趣味はない。尤も S か M かと問われて、後者と答えることは無いだろう けれど。しかし女王様としては、如何せん胸元が寂し過ぎる。

砂漠の遮られることの無い熾烈な陽光が、インドアな肌を焼く。背後から差し込む日差 しは、わずかに地平線に掛かる頃だった。すっと一筋、涼しい夜の響きを持つ風がすり抜 ける。

敵か味方か、一群に歩み寄る男の影に気付くまでにはもう少し時間があった。